もう何回目か忘れたけど・・・ちょっとひさびさに「おかしなおかしな大記録」を読みました。

                 スティーヴン・パイル著 中村保男訳  文春文庫

 失敗集。それも、こんな失敗ホントにするか〜〜〜というヤツばかり集めた本。自己啓発とかビジネス書とか読んでると、こんなのも読みたくなる。こういう失敗をするのは、まぎれもない、ヒーローである。
 本当の失敗者は失敗を恐れて、したいことをしなかった人。失敗したっていいんだ!と力強く思わせてくれる、めちゃくちゃ面白くて、勇気を与えてくれる本である。

 中でも、虫のお気にはコレ!

 17歳のとき、船大工の修業をしていたトミー・クーパーはエセックス州ハイド市で催された造船会社の音楽会に出演した。ところが、マジックを演じるつもりで舞台に出たものの、幕が開いたとたんに、セリフをすっかり忘れてしまった。
 しばらく茫然とつっ立って口をぱくぱくさせていると、観客席は期待で静まり返った。「よし、このままやっちまおう」とクーパーは意を決した。
 が、案ずるより産むが易しどころか、やることなすこと全てがうまくいかず、とうとう最後のとっておきの演目、牛乳瓶の手品をやる段になった。「ここに牛乳のいっぱい入ったビンがあります」とうっとりしている観客に口上を述べる。「このビンの口のところに紙をかぶせてからビンをさかさまにして紙をどけても、牛乳はこぼれません。」
 観客が固唾を呑んで見守るなかでクーパー君はビンを下向きにして紙をひっこめた。たちまち、ぱっとふきだした牛乳で手品師の全身はぐしょぬれ。

 手品師って演出上わざと失敗したりするけど、本物には負けます。

 それから、コレ!酔っ払いのお話は好きなんだよね。これでたっぷり30分は笑った。実は虫は下戸なんだけど、こういうの読むたびに、愉快な酔っ払いっていいなぁってあこがれます。

 1937年にスピッドヘッド港で満艦飾の艦艇にイルミネーションがつけられたとき海軍中佐トミー・ウッドルーフ殿はその模様を伝える珍解説を放送して一躍有名になった。
  放送開始前に中佐殿は祝賀パーティーに参列して、いささかきこし召していた。そのため、中佐殿の実況解説はしどろもどろ、おまけに最高11秒間の沈黙によって再三中断される始末。
 「目下、艦隊全体が光り輝いております。〈光り輝く〉というのは、色つきの豆電球で煌々と照らされているということです。あの光景はとてもこの世のものとは思えません。もはやあれは艦隊ではありません。あれはまさしく、・・・おとぎの国であります。艦隊は一隻のこらず、おとぎの国に入っているのであります。さて、私の話をこのまま聞いていてくだされば・・・・まもなく艦隊が世にも不思議なことをおこなう場面をお伝えできるでしょう。」
  ここで長い間を置く。
 「申し訳ありませんでした。そばにいる人におしゃべりをやめてくれと頼んでいたんです。」嬉々として中佐殿は説明した。
 ちょうどそのとき、艦隊の電灯が全部消え、ロケットが打ち上げられることになった。ウッドルーフ中佐の感想は、「消えました、消えました。艦隊はもはやありません。要するに・・・消滅したのであります。かつてこの世で魔法の杖を振ったことのあるいかなる魔術師といえども、ただいまほど見事にやってのけることはできなかったでありましょう。艦隊がなくなったのであります。消えてしまったのです。」
 そして次に・・・「私がこうして実況をお知らせするために立っております場所は、このくそいまいましい・・・(せきばらい)この艦隊のど真ん中でありまして、そこで何が起こったかと申しますと、艦隊は、なくなり、消えてしまい、なくなってしまったのであります。」
 ウッドルーフ中佐の声がかすんで消えていった。アナウンサーが「これをもちましてスピッドヘッドからの実況中継を終わります」と告げ、ダンス・ミュージックが流れてきた。
 あとでウッドルーフ艦長殿いわく、「あのときは感きわまってしまってね。」

 スポーツ関連では、文句なしにこれ!

 1929年、アメリカの女性ゴルファーがゴルフ史上で記録破りの“偉業”を達成した。ペンシルヴァニア州の、ショーニー・オン・デラウェア市で開かれたレディーズ・トーナメントの予選で、この女性はパー四の16番ホールに自信満々の闘志で挑戦したが、第一打でボールがビニーキル川に飛び込んでしまった。普段ならばもはやそれまでとなるところなのだが、ボールが浮いているのを見たそのプレーヤー、ボートに乗りこみ、ご亭主に漕いでもらって、自分はへさきに立ち、クラブを振り回し続けた。ご主人は1マイル半もの距離を漕ぎとおし、その間、奥さんの打数を数えていた。やっとのことでボールを陸(おか)にあげた奥さん、今度は森の中を通り抜けるまで、打ちまくった。
 競争相手のプレーヤーが、あの人の姿を見ることはもうあるまいとあきらめてしまってから、「フォア!」(いきますよ)の声とともに、ボールが全く意外な方向から飛んでくるのが見えた。
 スタートしてからホールインするまでの時間は2時間近く。打数は百六十六打だった。

 感服します!!