政治家に何ができるのか〜「チャーリー・ウィルソンズ・ウォー」(上)を読みました。

              ジョージ・クライル   真崎義博 訳  早川書房


 これは映画になっている。映画はまだ観ていない。いずれテレビ放映されるまで待とうかなと思う。

 実在の人物に関するノンフィクション。

主人公は、チャーリー・ウィルソン。テキサス州選出の下院議員である。5年目。

 日本でいうと衆議院議員。5年目ともなると、委員会などの役職がもらえるころである。

 このチャーリー・ウィルソン、真面目な議員としての功績より、やんちゃ坊主で名高い。

 とりわけ、1980年にラスヴェガスで、起こしたスキャンダル・・・、豪勢なホテルのスウィートルームで、二人のとびきりの美人と夜を過ごし、二人とも「たっぷりコカインを持っていて」(チャーリー談)まさに、退廃のきわみで楽しい夜を過ごし・・・その後、捜査官に追っかけられて眠れない夜を過ごした。

 いやはや、記憶に新しい「のりP」事件よりはるかに、ひどい。のりPなんかちょっとハイになってただけじゃんとさえ言いたくなるようなきわめつけの派手な事件である。もちろん、麻薬使用を容認するわけではないが。

 酒・コカイン・女に溺れ、毎晩、きれいどころをひきつれては社交界を遊びまわっているのがチャーリー・ウィルソンである。うらやま・・・あ、いや、けしからんのう。

 このラスヴェガスでのスキャンダル、いくらなんでも、これはまずいでしょう!これでもう議員生命もお終いか・・・と思いきや、これを生き残るのである。これが、のりPと比べてもすごい。

 もちろん、アメリカでもコカインの使用は違法である。

 チャーリー・ウィルソンが生きのびたのは、友達がみんなしてかばってくれたからに他ならない。

 しかもチャーリーの場合、隠れた家の近くで(もちろん逃げたし)、酔っ払い運転して人にケガまでさせているのである。

 隠れ家からひたすら弁護士の助言を仰ぎ、ギリギリセーフ(ひかれた人はお金で黙ってくれた)。

 のりPとの差は友達がよかったことだろうか。当初証言しようとしていた運転手も偶然、昔世話した女性の息子だったので、決定的にはならなかった。あるいは弁護士の腕だろうか。単純に、麻薬使用の科学検査が進んでなかったためかもしれない。

 ま、それはともかく、「お気楽チャーリー」遊び人チャーリーは、ちょっと誇張されていた。「遊び人」を演じてすきがないあたり、まるで遠山の金さんかあだ討ち前の大石くらのすけである。

 彼の中には、かのチャーチルにあこがれる面があったのである。チャーチルをご存知だろうか。イギリスの政治家で、第二次大戦中、ヒットラーを打ち負かした英雄である。この人は虫も好きだ。

 アフガニスタンの戦闘映像、その悲惨さが彼のその部分を目覚めさせる。

 彼は、戦争をおっぱじめるのだ。

 戦争って!!

個人でもできるか〜?

 日本の衆議院議員のセンセーが戦争をおっぱじめたら「えらいこっちゃ」である。

 これは、こっそり裏戦争をして冷戦を戦っていたアメリカならではの話だ。

まず、手はじめにチャーリー・ウィルソンは、所属委員会でアフガニスタンにこっそり援助する金額を倍にする。

 ところが意外とCIAは喜ばないのである。それどころか、よけいなお世話だ、口出してくんな!である。

CIAも日本の官僚とあまり変わりがないようだ。イギリスのMI6にならって、WASPアイヴィーリーグ出身者で固めてある。(すくなくともこの当時は)国公立のエリートで固める日本の役所そっくりである。

 このエリートたちは、議員が口出しをすることを拒否る。説明には来るけど、難しめの言葉でいいくるめようってコンタンがみえみえである。

 そこで〜〜、チャーリー・ウィルソンと手を組むのが、はみだしCIAのガスト・アヴラコトスである。上巻はこの二人が手を組むところで終わる。

 ガスト・アヴラコトス。名前でわかるようにWASPではない。ついでに説明するとWASPとゆーのは、ホワイト・アングロサクソンプロテスタントの略で、イギリス系新教徒の白人のことであり、アメリカの支配的なマジョリティである。彼はギリシャ系である。

 もともと、マイノリティの出身ということもあるが、どう考えても災いしているのは、彼の反骨精神である。

 上司に面と向かって「バカヤロー!」なんて言った日には、CIAに限らずどんな組織でも出世は無理だろう。それぐらいは虫もわかる。いいたい上司はたくさんいるだろうけど・・・。
 しかも、2回も・・・・ぜってー無理!

 こういった態度をとったのは、「ギリシャ人というのは選ばれた民族だ」ということを心ひそかに信じているからだそうだ・・・。選民思想か。ユダヤ人では聞いたことあるけど、ギリシャ人にもあったのか・・・。

 特にガスト・アヴラコトスの母親は、選ばれた民の選ばれたエリートだと息子を洗脳したそうである。まぁ、そうおっしゃるならそういうことにしておこう。自信にはつながりそうである。ちょっと過剰な気もするが。

 かように無敵なギリシャ人がWASPごときにヘイコラするわけがない。

 
 ちなみに、この上司の写真をもらい、知り合いのギリシャ人女性(っつーか、魔女)に見せて、呪いをかけてもらったそうである・・・なんでもインポになる呪いだそうで・・・ギリシャ人、怒らせるとこんなことをするのか。


 このはみだしCIAとチャーリー・ウィルソンが、手を組んで、戦争をおっぱじめたわけである。

 ところで、なんとなくあらすじはわかったが、読んで一番驚いたのは、チャーリー・ウィルソンが民主党に属するということである。

 保守的で反共主義者なのだから、てっきり共和党なのかと思った。チャーチルは保守党だし。

 アメリカの民主党には、こういう保守派もいるのか。日本の民主党にもいるが・・・。

 ただ、チャーリー・ウィルスン、黒人とユダヤ人に非常にひいきされている。

興味深いのは、民主党の議員が反共の戦争をおっぱじめたということかもしれない。レーガンは「悪の帝国」とか、語調は強いけど、実際にはなにもしていなかったようだ。ちなみに、イラン・コントラ事件についても触れてある。

(下)に続く。