超「かっこいい」小説〜「身元不明者89号」を読みました。

    エルモア・レナード   田口俊樹 訳    創元推理文庫



 さっき調べたが、エルモア・レナードはこのブログでは初紹介のようだ。

 いや〜、面白いのに、このブログはじまってからは、読んでないか、読んでも紹介しなかったのか〜。申し訳ない。

 虫が思うに、小説の形容として「かっこいい」がぴったりなのは、エルモア・レナードだけである。どんな風に「かっこいい」かを言うのは簡単である。タランティーノの映画を観た事ある?あれくらいかっこいい。

 実際、タランティーノはE・レナードに傾倒している。彼の映画のちょい悪(ワル)な犯罪者である主人公たちは、E・レナードの小説の主人公に似ている。

 意外にもE・レナードの原作の映画化が実現したのは1作だけ、「ジャッキー・ブラウン」である。虫も観たが、あの映画はかっこ良かった。パム・グリアかっけ〜。原作も前読んだ。

 さて、今回の小説の主人公のジャック・C・ライアンは令状配達人。この職業の選び方もE・レナードらしい。この人の小説の主人公は、基本的に「ヒーロー」とか「正義の味方」ではない。肩の力を抜いて、自分らしさを貫くところが、逆に「かっこいい」ゆえんだろう。
 令状配達人とは訴えられた人に令状を渡す係。他に差押えなどもするようだ。
 ライアンは特にすご腕で、人の居場所を突き止めるのが上手い。

 そこを見込まれて、人探しの依頼を受ける。

 頼んだのは、ミスター・ペレスなるあやしげな人物。本人や相続人が持っていることすら忘れている株券を換金して手数料を稼ぐという。

 しかし、探してくれと頼まれたロバート・リアリー・ジュニアなる人物がすごい。何人も人を殺している上に精神病院に出たり入ったりしている。どうやら頭がおかしいということにして、刑を免れたようだ。とうてい、かかわりあいになりたくない人物である。
 
 そのリアリーが殺され、身元不明者89号となる。

 この中盤あたりから、ちょっと小説の雰囲気が変わってくる。ジャックは突然酒を飲み始め、AAの集会に行く。AAはアルコール依存症、つまり断酒の会で、皆で輪になって、アルコール依存の話をするやつである。
「私はアル中です」とか。

 そこで、一度会った時にベロンベロンに酔っ払っていた故ロバート・リアリー・ジュニアの奥さんに会い、彼女といい感じになる。なお、ロバート・リアリー・ジュニアは黒人だが、彼女は白人である。

 さあ、コマがそろった。ミセス・リアリーと今は彼女の味方になって、ミスターペレスの手先をやめたフランク。ミスター・ペレスと彼が別に雇っている殺し屋。

 それぞれ何かたくらんでいて、それがどう交錯するのか。

 ある意味、ボードゲームかトランプゲームのような面白さだ。これが、エルモア・レナードの真骨頂。

 最後の一手まで気が抜けない。

 そしてかっこいい。