サイモン・ブレットの「奥様は失踪中」を再読しました。

                 堀内静子訳  ハヤカワ・ポケットミステリ

 ミセス・パージェターシリーズである。

 ミセス・パージェターシリーズでは、だいたい、ミセス・パージェターが新しい所に移転する。海外旅行とか、老人ホームとか。
 そこの、中産階級的な社会現象に思いっきり皮肉を浴びせるのがこのシリーズの特徴であり、楽しみでもある。
 もちろん、推理小説としての構成もしっかりしている。

 今回はおもいっきり、中産階級的な場所・・・郊外の住宅地である。

 ここでは女ばかりのゲットーが出来上がっており、(夫もいるが、仕事に忙しくて影がうすい・・・そこらへん、日本とにている)お互いに閉じこもっているが、窓のレースのカーテン越しに、誰にどういう訪問者があったかというようなところはしっかりチェックしているのだ。

 もちろん、不倫やら、何やらで忙しい。イギリスでは話し方で出身階級がわかるため、いつも、言い方を考えて(庶民的じゃなくして)忙しい奥さんとか、共働き(で上司と不倫中)の奥さんとかである。孤立してはいるものの、人にどう思われるかを非常に気にしている。(虫の知ってる範囲では、日本人もたいがい人にどう思われているのか気にしている。これは、日本人だからかなと思っていたが、日本人に一番多い階級・・・中産階級だからなのだろう)金持ちの真似をして、欲しくもないジャグジー風呂なんか買っちゃうのである。「金持ちな自分や家族」を演出してしまうのである。

 これに対してミセス・パージェターは自分を偽ることなど考えたことがない。労働者階級であり、それを恥だと思ってなどいないのだ。ミセス・パージェターの今は亡き夫は実に尊敬すべき人であった。
 このミスター・パージェターには本当に会ってみたいものである!彼は憧れの自由業・ドロボーであり、本当にロビン・フッドのように、仲間の面倒を見たのである。そうでなければ、「お亡くなりになったご主人にはご恩がありました。何でも言いつけてください!喜んでいたしますから」とミセス・パージェターに異口同音に言うわけがない。
 亡きご主人の手下などの仲間を使って、ミセス・パージェターは殺人事件の解決をする。
 この仲間たちが実に魅力的な、いい連中である。足をあらってカタギの生活を送るものの、昔の特技で助けてくれるのである。(家宅侵入とか)

 そうそう、絶対素朴教会とかいう、カルトの新興宗教もでてくる。信者になると、全財産の寄付をせまるあたりがオウムとかを思わせる。

 ミセス・パージェターに関して、いつも感心するのは、自分を大切にする方法を知っているということである。ミスター・パージェターの遺産を有効利用して、実に人生を楽しんでいる。今回も週末はロンドンで豪華なホテルに泊まり、新しい芝居を見ている・・・。自分をもてなすことを知っているのだ。