「憎しみの絆」を読みました。(ジャネット・ドーソン著、押田由起訳)

               ※推理小説ですが、ネタバレはありません。

解説によると、ジェリ・ハワードシリーズの3作目。レノア・フランクリンなど懐かしい名前が登場する。
  とりわけ印象的なのが、アメリカ海軍一等兵、サム・レイナーの女を追いかけ、次々とくどきながらも根本的には女を憎んでいるその性格態度である。典型的なゲス野郎と言ってしまえば終わりであるが、そのために方々に敵をつくる。DVの常習犯である。この男は社会病質者、犯規範的人格障害者である。放火やレイプや盗みを行っても「悪いこと」をしたとは思えないのだ。
  しかし、この小説は、実際の殺人犯人以外の「犯人」ーそれはアメリカ社会の病理そのものであるーをも告発しているようにも思える。
  サムをあがめ、サムは悪いことなんてするわけがないという思い込みにすがる母親・・・、母子家庭という苦しい環境(でも他の兄弟はまともである)。
  多少のことには目をつぶりサムの病状を悪化させる(よってより弱い女性を守れない)、南部の香りを色濃く残したカリフォルニアの白人下層社会。ホームレスに冷たい大都会。
  ちょっと深読みかもしれない。
  ジェリはベランダでトマト栽培をしており、いつでもおいしいトマトサラダを食べられる。(うらやましい、トマトは大好きだ。)しかし、そのトマトの木にはいやらしい青虫がつく。(そうでもないか)
  サム・レイナーに戻ろう。女を口説くとき、彼はとてつもない魅力を発揮する。しかし、結婚したが最後、必ず殴られるのだ。女を利用し、女なしではいられないが、本当は心底憎んでいるのだ。結婚という制度は彼にとっては、殴れる女を飼っておくいけすのようなものだろう。もちろん他に(港港に)女がいる・・・当然である。そして、妻には決して与えないお金をそういった女どもに費やすのだ。
 そうそう、窃盗団の仲間に働いている店を襲わせたり、麻薬の運び屋もしている。
  彼の本性を知った愛人が別れようとしたり、ルース(レノア・フランクリンの娘で、サムの妻)が再出発をしようとする姿は美しい。
  注)サム・レイナーは被害者である。