9・11はアメリカのオウム事件〜「自爆テロリストの正体」を読みました。

             国末憲人   新潮新書

 9・11事件やロンドン地下鉄での同時多発テロ、モロッコでのテロ事件など、ここ10年くらい、自爆テロが次から次へと発生し、何物にも代えがたい貴重な命など多数の損害が発生している。

こういったテロリストにどういったイメージをお持ちだろうか。

アメリカでは、これらの事件をきっかけにイスラム教徒=テロリストというイメージが先行し、同国で暮らす、アラブ系やイスラム教徒である人々、イランやトルコ出身の人達は住みにくさを感じるようになったようである。アメリカのテレビドラマを見ていたら、トルコ系の若者が、9・11をきっかけにイスラム教徒の友人としか付き合わなくなり、姉のボーイフレンドに敵意を燃やすようになったと訴えるお母さんが出てきていた。困ったものだ。

 素朴なイメージとして、「貧困層」出身の「敬虔なイスラム教徒」の青年が、「西欧を知らず中東の世界に固執して」そういった自爆テロに走るという感じではないだろうか。確かに、この本を読むまではばくぜんと虫もそのようなイメージだったと思う。

 しかし、違うのだ。

まず、「貧困層」出身ではない。
 かといって大富豪でもないが、そこそこ裕福な生まれである。9・11事件の容疑者、アタは父親が弁護士だ。やはり自爆テロリストのモハメド・ムハニはスラムの出身だが、その地域では初の大卒である。どちらかといえば成功した部類だろう。

 次に「敬虔なイスラム教徒」などではない。
 「彼らをイスラム教徒と呼ぶのは、オウム真理教(ま、名前はなんであれ)を仏教徒と呼ぶのと同じくらい間違っている」と捜査関係者は語る。
 アルカイダなど、彼らが属する集団は、擬似イスラムのカルト宗教である。イスラムのあちらこちらから適当に教義を寄せ集め、中にはキリスト教からも拾ってきている。家を回って布教するやり方は、「エホバの証人」から学んだようだという。やれやれ、カルト同士で学びあっているというわけだ。
 モハメド・ムハニの家に取材にいった筆者は、家に宗教色がほとんど全くないことがわかる。日本でも、形式的には寺の檀家だが、全く仏教に興味がないという家があるのと同じである。ヨーロッパやアメリカでも、形式的にキリスト教の洗礼を受けるが、教会なんか全くいかない人がゴマンといる。それと同様に、ムハニの家はフランスに住んでいるということもあり、非常にフランス風な、イスラム色の全くない家だったという。
 そして、モハメド・ムハニ自身も非常に世俗的な普通の少年時代を過ごしたようだ。実際、自爆テロの2,3年前にカルトに入って、急にムスリムイスラム教徒)ぶるまでは宗教に関することなど、彼から一切聞いたことがなかったという。

 そしてもちろん、「西欧を知らず、中東の世界に固執」しているわけでもない。フランスで育ったモハメド・ムハニはもちろん、大卒など、優秀な学歴の持ち主が多い。ビン・ラディンなど、ケンブリッジかどこかに語学留学していたらしい。そういう優秀な人達が西欧文明に触れないわけがない。差別を受けるなどのショックがあって、西欧にイヤ気がさし、カルトに走る人が多いということだ。また彼らのテロで、差別が拡大すると思うのだが・・・。

 このカルト宗教の上層部は、自らテロはしない。行くのは、下っ端の鉄砲玉である。
 常に信者を募集しているが、主としてモスクの外、刑務所の中で近づくケースが多いという。
 モスクにはイスラム教徒であれば誰でも入れるイスラム教の教会である。しかし、中ではモスクの宗教的指導者の監視があるから、モスクの外で近づくケースが多いという。イスラム教指導者に感化力があり、ムスリムにその指導力を発揮しているところでは、こういうのにひっかかるケースは少ないという。指導者が未熟なところではカルトがのさばっている。本物のイスラム教に触れれば、カルトにはひっかからない。他の宗教でもそうだが、本物に触れると偽物が稚拙なことがわかるのだ。
 刑務所でイスラム教徒や他の宗教に入る例は多い。マルコムXなどが有名である。刑務所はもともと自分を見つめなおすところであるし、環境が変わると心細くなるというのもある。教誨師など、まともな宗教的指導者の指導のもとにまともな宗教に入るなら、さほど害はなかろう。しかし、この手のカルト宗教が送り込んだ募集人は運動の時間など、他の囚人と交流できる時間を使い、さびしそうな大人しそうな囚人に狙いを定めて、口説き落とす。「本当のイスラム教に興味はないですか。あなたが受けた不当な仕打ちの復讐をしたくないですか。」囚人のほとんどが自分が受けているのは不当な仕打ちだと考えているのだ。

 そしてカルトにひきいれられると、こんなのが待っている。

  • テキトーな教義。イスラム教だとシーア派スンニ派があり、それは4代目のカリフを認めるかどうかで異なっている。しかしテロリストが持っていた「教え」の小冊子には、アリというカリフについて書いてあり、普通スンニ派では書かないものだった。テキトウなのだ。
  • こまごまとした作業を儀式と呼んで、手順などを厳しくやらせる。
  • 天国を盛んに引き合いに出して、死を美化する。これは「太陽寺院」事件と同様だそうだ。
  • 夜を徹しての祈り

 これはまさに、オウムがやっていたものではなかろうか。オウムと同様、彼らも隔離され、洗脳される。
 そして、自爆テロリストを育てて送り出す。

 
・・・9・11ってアメリカのオウム事件だったのか〜。いままでこれについて読んだ本のなかで最も納得できた。

 しかし、ほんとカルトってこわい。

 オウムでも高学歴が多くて話題をさらったが、テロリスト(=カルトにひっかかった人)も高学歴が多い。確か、アタとかどっかの工学部でてたような・・・。
 マルチにひっかかるのも同様で、実は高学歴(といってもそこそこ)な人が多いそうである。だいたい優秀な高卒か出来損ない(いいとこに就職できなかった)大卒が多いのだとか。

 上の学校に行っているということは、それだけ他人(先生)のいう事をきくという意味もあるからね・・・。

 今度の選挙で敗北した「K福の科学」や「Sか学会」がテロに走らないか、見張る必要があるかも。