さよならマイホームドリーム〜「住宅喪失」を読みました

                  島本慈子     ちくま新書

昔「夢にまでみたマイホーム〜」なんていう歌の一節があった気がするが、「マイホーム」はほとんどのサラリーマン家庭にとっての夢だった。今でもそうだろう。

しかし、今・・・その夢が遠ざかりつつある。

 派遣村の時に、自動車工場の閉鎖にともない、解雇された派遣社員が会社の寮に住んでいたため、家を追い出される事態が発生し問題になった。

 これは、工場以外で働く非正社員、さらには正社員にとっても他人事ではない。いつホームレスになるかわからない事態が現実となりつつあるのだ。

 派遣や契約社員などで働く非正社員は、雇用が不安定だからせめて持ち家を買いたいと思う人もけっこう多い。最近は独身女性がそういった希望を持っていることが多いらしい。

 しかし、派遣や非正社員ときいたとたん、銀行は住宅ローンを組ませてもらえない。なお、少数ながら借りられるところもあるが、金利が高い。なぜか貧乏なほど損をするらしい。現金で買えれば別だが、そうもいかないだろう。

 正社員も、以前のように昇給や残業代が出ない。だから、昇給や残業代を見込んで住宅ローンを組んだ人が返せず、家を手放すハメになることが最近は多いのだという。
 もちろん、リストラをされると払えなくなる。
 リストラと離婚が家を手放す理由のほとんどだという。

 持ち家を手放した場合、賃貸に住まなければならなくなる。賃貸では敷金や礼金などがいるが、そもそもお金がないために家を手放すハメになったのだ。持ってるわけないだろう。持ち家を手放した場合は普通以上に住むところを探すのが難しくなる・・・なんかヘンな話だ。

 なお、これから持ち家(マイホーム)の購入を検討されている方は、この言葉を覚えておいて欲しい。
ノンリコースローン」だ。金融機関でローンを組む際、このローンにしたほうがいい。これでないと、下手すると預貯金まで差し押さえられる危険があるが、これは担保である家だけ手放せばよい。敷金・礼金も出るというものだ。
 
 正社員の数が大幅に減り、非正社員が増えている現在(なお、労働人口の流動化というのはそういう意味だ)正社員であっても持ち家、つまりマイホームを持ち、それを維持するのは難しい。

 あらためて考えて見ると、住宅ローンの前提は終身もしくは長期の雇用であり定期的な昇給である。それが崩れている現在、住宅ローンを利用したマイホームの夢もくずれざるをえない。

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マイホームがマンションである場合、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」というのがある。

マンションの建て替えに賛成するマンションの住民が多数の場合、反対した少数派住民が追い出されるというものだ。買取はされるが、マンション価格の下落が多い現在では補償になるまい。

建て替えに賛成と軽く言うが建て替えには費用がいる。つまり、反対するのはローンを組みたくても組めない、定年退職後の高齢者など、経済的弱者である。

賛成の場合も、やっとローンを完済してマイホームを手に入れたと思ったら、こんどは建て替えのためのローンを組むハメになるのだ。

 
 これはひどい

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この本にアメリカのホームレスの言葉としてこんなのが紹介されていた。

「誰からも出て行けといわれない部屋を持つことは自分が地球上に存在する意義を持つこと」


 人は住むところがあって、はじめて人間らしい最低限度の生活が送れる。

 これに自由主義経済の競争原理を適用するのは間違いではなかろうか。人は誰でも、経済的に圧迫されずに、最低限の住まいを確保する権利を持つべきである。これは、人間の尊厳に深くかかわると思う。