あなたの人生と命くれますか?〜「テイキング ライブス」を読みました。

                マイケル・パイ  広津倫子〔訳〕     徳間文庫

 「今の自分としての人生を捨て、全く新しい人生を送りたい」

 そう思ったことはないだろうか。

 誰でもちょっとは、あるのではないか。

 引越し(転校)や旅行や進学がわくわくするのは、そのためではないだろうか。

 夜や週末におしゃれをしてクラブに行ったり、髪の色を変えたり、女性ならお化粧を変えたりするのもそのためだろう。

 これは、全く新しい身元を取得し、別の人間として何度も生きたある男の話である。

 ただ、その身元の取得の方法が怖い・・・同じ年恰好の男を殺し、彼の人生を奪うのである。クレジットカード、預金、など。

 都会によくいる孤独なタイプなら、なかなか殺人もわからない。その間に本人として生活し、クレジットカードを使う。家族が探しにきたり、知り合いに会うなど、まずくなると、次の犠牲者を探すのである。

 ◇    ◇    ◇

 実は、この本に関しては、映画と本の二本立てである。つまり、この題名の映画を録画しておいて、図書館でこの題名の本を借り、同時期にみたのだ。

 先に本を読んで、その後映画を観たのだが、この順番が仇となった。小説の犯人につられて、映画でも騙されてしまった・・・くやしい。

 微妙に設定が変えてあり、両方とも楽しめる。

 本では、相手の情報を収集して、相手になりかわる過程がじっくり味わえるし、映画では、本にいないアンジェリーナ・ジョリー演じるFBI捜査官がなかなかいい味を出している。

 たいていこういった場合、小説の方に軍配があがるものだが、これはそうではない。映画のノベライズっぽいせいか。

 こんなことまでしなくても、すでに死んでる人の戸籍や出生証明書を流用すればいいのに・・・。
 
 小説と映画では、人の人生を乗っ取る人の(その時点の)名前が異なる。

 小説ではもう1人主人公格の人が現れて、この人は普通の人なのだが、最後に血迷って、犯人を殺し(ただ犯人からも命を狙われており正当防衛っぽい)、自分が犯人になりすましてしまう・・・つまり、犯人がやってきたことをきっちりそのままお返しするのだけど、なんかその部分は説得力に欠ける。やっぱり、犯人に備わっている異常性がないと・・・他人の人生を生きたいという、まったく妙だけど熱い欲望がないと、どうもうなづけない。やっぱり普通はそんなことしないと思う。この人も結局警察に保護され、連続殺人犯をころした点は不問に付される。「殺してくれてたすかるよ」みたいな・・・。ヨーロッパが舞台であちこちの国で殺しているため、何かややこしい国際法上の盲点があったようなのだ。これに対して、映画ではカナダだけなのでそういった問題は起こらない。

 この映画はなかなかよくできていると思う。終わり方もいい。小説でなかったのが、もうひとつ、犯人の双子の兄と、親の露骨なえこひいきである。これが説得力を増している。こういった家庭での精神的暴力(えこひいきは完全にそうである)は犯罪の温床である。それでも犯罪に走らない人もいるのだが・・・。