怪しい沈没船〜「ジャマイカの墓場」を読みました

          ジョン・ラング  浅倉久志 訳    ハヤカワ・ポケミス

 前回の本とまとめて借りなかったら、「ジョン・ラング」がマイケル・クライトンとは気がつかなかっただろう。

 それにしても、この日本語版の題名は、ナイと思う。これで、小説の内容や面白さを知ることはできまい。
「墓場」というのは、なんと、船の名前からきているのである。「墓場」なんていう名前の船、ちょっと思いつかないのではなかろうか。英語の原題が“GRAVE DESCEND”。GRAVEが墓穴で、DESCENDが下っていくというような意味だから、正確には「墓穴入り」。(本編に出てくる)
 船乗りは、縁起を気にすることで名高い。カリブの海賊の最初のでも、女性を船に乗せることについてブツブツ言う、旧式の船乗りらしき話が出てきたし(政治的配慮のためか、2、3では、普通に女性の船員が乗っていたが)、「宝島」(小説のほう)では、紙がなかったので、聖書の白いページを破って手紙をこしらえた船乗りが、「縁起が悪い」とぶつぶつ言っていたシーンが印象深い。
 その船乗りが、そんな縁起でもない名前の船に乗るだろうか。なんかあやしい。

 主人公は潜水夫のマグレガー。沈没した<グレイヴ・デセンド>号(=墓穴入り号)の調査を依頼された。
 このように、名前からしてあやしげだし、依頼した海上保険調査員であるというウェイン氏もあやしい。普通は沈没したところにバッテンつけない。その場所を特定するのが困難だからだ。普通は沈没したらしきあたりに大きいマルをつける。何でそんなに正確にわかるのか?
 その船は昨日沈没したという。
 船長や関係者に話を聞いた後、その場所を下見に行って驚いた。なんと目の前で、ダイナマイトの仕掛けられた<グレイヴ・デセンド>号が沈んでいくではないか。正確にわかるのも道理である。
 ウェイン氏の話だと、実際は昨日沈んだのだが、船の持ち主の愛人を乗せていて、その奥さんに知られたくないから、今日沈んだことにしてくれという。
 まったくのうそっぱちである。

 怪しいことは重々承知だが、引き受ける。なぜって、やっぱり先立つモノがいりますがな。ワリがいいのである・・・。

 翌日潜りに行くと、沈没後、24時間ぐらいで普通はなくなるアワがまだ出ている。(コイツらオレをどんだけバカだとおもってんのかよ)と思いつつ、潜水して、言われたものを引き上げる。引き上げるように言われたモノは二つあったが、片方しかない。
 なお、潜水はシュモクザメがうようよしているところ、サメがたった一滴の血が海に落とされたにすぎないのに、その場所を数キロ先からわかるのはどうしてか科学的に解明されていないのだそうである。

 船にはなかったが自分のホテルの部屋が荒らされていて、なかったはずの片方の(彫像なんだが)が部屋にある。ヤバい相手と取引して、ハメられたのである。きれいに。
 頭を殴られて、ジャマイカのジャングルに置き去りにされた場面がまた冒険小説的である。このジャングルには、海賊のモーガン船長がお宝を隠したという噂があるそうである。今からいって、ちょっと探してこようと思う人には言っておくが、そこらへんには凶暴なワニがいて、現地の人に、足の不自由な人をどんどん増やしている。さーて、これで警告しなかったとは言わせませんよ!

サギのからくりはマネーロンダリングと関連があるらしく、大金の匂いがする。

しがない潜水夫が最後は、大金をつかむ。めでたしめでたし。