墓ドロボウ〜「ファラオ発掘」を読みました。

       ジョン・ラング(マイクル・クライトン)    沢川進 訳  ハヤカワポケミス

 
 考古学は魅力的な学問ではあるが、学問がたいていそうであるように、報われることが少ない。発掘品は博物館にいってしまう。考古学者に残されるのは、発掘者という名誉と、論文だけである・・・。

 しかし、一旦、反対側に行くと決めてしまい、掘るモノによっては、実入りが多い。盗掘者、言い換えればドロボーになる場合である。

 莫大な財宝の存在を知った真面目な考古学者が、その誘惑に負けてしまう・・・が、実際のドロボーとして実行に移すには色々計画や段取りを決めなければいけない。そこで、バーで知り合った犯罪者に、その財宝のことを打ち明ける。知能と実行力、名コンビのできあがりである。

 マイケル・クライトンが、ジョン・ラング名義で書いた本書は、エジプト考古学の面白さと、犯罪小説のスリリングさをうまく結びつけたなかなかに面白いモノである。

 最後のオチのところ・・・、豆の缶詰をもらうところ、しばらく、意味がわからなくて、前の方を読み返したが、そんなに前を読まなくてもよかった。しばらくして気付いたけど、なかなかこじゃれている。

 結局、財宝を買わせる相手がエジプト政府なので、結局、「根っからの悪人」にはなれないのが、「犯罪小説」としてはあと一歩ぐらいなところか。だって、後から買わせるのなら、政府公認の下での発掘とそんなに変わらず、事後承認といったところか。財宝を闇に売り払う・・・というのは、考古学者としての良心が許さなかったのだろう。

 もう一つ難点を言えば、スポンサーのプレイボーイの貴族の描き方が「金持ち」という言葉で思い浮かべる典型的なタイプで、深みを感じないところと、ロマンスの相手方である女性の描き方もちょっと典型的すぎるという点だろうか。
 確かに、以後の作品でも「人の描き分け」という点では、クライトンはイマイチかもしれない。小説ごとに研究して出してくる学問の面白さと、緊迫した状況を作り上げる腕で気にならないが。

 それにしても、フリークライミングのような態勢での発掘という困難、エジプトの役人とのカモフラージュの虚虚実実の取引、財宝の素晴らしさなど、一読には値すると思う。