記憶喪失のスパイ〜「暗殺者(上)」を読みました。

         ロバート・ラドラム   山本光伸 訳   新潮文庫

 
 今回もう一度読んだきっかけは、映画「ボーン・アイデンティティ」をテレビの再放送で見た事である。

 この映画の原作はこの作品である。少なくとも設定は同じである。

 テレビで見て、そういや昔、原作を読んだな〜と思っていたら、家の片隅から出てきたので、もう一度読み始めた。

 
 ラドラムの作品は、暴力描写が多くて、映画化に向いてるかもと思っていた。これではないけど、冒頭に出てきた軍隊の男に感情移入しはじめていた矢先に、全員殺されたのにはボー然としてしまった。感情移入をする前に殺されるならともかく、この人と作品世界を歩こう!と思い始めてから死んでしまうのはショックが大きい・・・。その後主人公が出てきたが・・・。
 ボーン・アイデンティティを見た後、読み始めてすぐに思った。やっぱり、原作の方が面白い。マット・デイモンが大根というわけではないが、追い詰められ感や記憶をなくしたことに対する内面的な苦悩は、映像で表現するのが、難しいところである。それでも、ボーン・アイデンティティは、2、3より面白いと思うけど。

映画では記憶をなくしたスパイが、自分を使い捨てた組織に復讐する話である。しかし、(忘れていたが)原作では殺し屋の組織と政府組織の両方から追われる、けっこう複雑な話で、映画のボーン・アイデンティティとその次(スプレマシーだったっけ?)をあわせたような話である。

 ボーン・アイデンティティは、映画の題名であるが、原題名でもある。(映画ってほんとうにカタカナにしただけというのが多い!)アイデンティティは、英語の“IDENTITY”だろう。自己同一性と覚えた記憶がある。この日本語もよくわからないが、「自分が自分であることの証明」という意味のようだ。さっきネットで確認したところ。
 記憶がなければ、自分がどういう人物なのかわからない。知らない間に近づく人を痛めつけたりしてしまう・・・。

今回は作品の一部だけ抜き出し、短い感想を書くことにする。

 ◇    ◇     ◇

背中から撃たれ、頭に傷を負った男は波間をさまよっていた。通りがかりの漁船に助けられ、親切な医者に回復まで置いてもらう。回復してみると、何も覚えていない。手がかりは、尻に埋め込まれていたチップにあるスイスの銀行の名前と口座番号だけ。ある程度回復した男は、親切な医者の元を去る。

   あとは独りでいってもらう

 しかしどうやって行ったらいいのか、カネがいる。

   きみは無力じゃない。進むべき道は必ずみつかるさ。

 その「道」が不倫中の貴族を強盗する(衣服とお金を奪っただけで、ケガはさせてない)ことだった点については何もいいますまい。ここは映画では完全に省略。

   焦れば焦るほど、自分を責めれば責めるほど、事態は悪くなる

 これは名言!
 こういったとんでもない状況じゃなくても、追い詰められた状態であればあるほど、冷静さが必要である。言い換えれば・・・・・落ち着け!

   直感だ。直感に従うべし。

 そうだ。
 行動の選択においては、全ての情報が論理的に出そろうことは少ない。いやめったにない。無意識レベルでの分析結果が直感としてあらわれることがある。それに従えばよい。

 映画でも出てくるマリーは映画では単に放浪癖のある娘だが、原作のマリー・サンジャックは、フランス系カナダ人でカナダ政府に雇われている経済学者である。最初は人質で、警察に助けを求めたら、その警察が、殺し屋組織の者で、逆に殺されそうになる。そこをボーンに助けられ、ボーンについていくことにする(ちょうど長期休暇をとったところだった)。ボーンが尻に埋め込まれたスイスの銀行から引き出した現金の利用方法や送金について詳しく、その経済的知識でバックアップする。

 カルロスとカインという二人の殺し屋が登場し、ボーンはカインらしい。


 どうなることやら・・・