風の吹く街〜「ウィンディ・ストリート」を読みました。

          サラ・パレツキー     山本やよい 訳   早川書房

 アメリカはイリノイ州のシカゴは、「風の街」というのがキャッチ・コピーである。古くは、クレイグ・ライスがこの街を舞台に、ジャスタス夫妻とマローン弁護士のシリーズを書いた。アメリカのミステリを語る上で、欠かせない街の一つである。
 
 これは、シカゴを舞台にしたV・I・ウォーショースキーのシリーズの最新版である。ま、虫が読んだなかでは。このシリーズは売れているらしく、最近ハヤカワさん、ハードカバーで出すようになった。前は文庫本だったのに。
 それで、即買いはちょっと考えてしまう・・・。ま、これは図書館で借りた文庫本だけど。

 ヴィクが高校時代、バスケをやっていたことは、以前のシリーズの中で書いてあったが、今回、バスケのコーチだった恩師が倒れ、代わりに臨時のコーチを引き受けることになった。ヴォランティアで。

 ヴィクが二度と足をふみいれるまいと誓った生まれ故郷のサウス・シカゴ。そこはもともと、移民や黒人の多いスラム。ここんところ長く続いている不況の影響で、荒れ放題である。

 高校の女子バスケットチーム。別にバスケが好きなわけではなく、スポーツ奨学金が、この街を出るパスポートだからである。すでに赤ちゃんがいる女子生徒もいる。少なくともバスケの練習をしている間は、街で危険なデート(何が危険かといえば、早すぎるセックス→妊娠→早すぎる結婚である)をしなくてすむ。

 なんだかルアン先生と重なるな・・・いつもは、女子高校生と接触したりしないヴィクなのだが。

 女子生徒のお母さんに頼まれ、勤め先の工場を探る方が、いつものヴィクらしい。その一族の傲慢不遜ぶりとか、こっそり不法滞在の移民を使っているところとか、このシリーズらしくなってきた!

 大家さんのミスタ・コントレーラスもわすれてはいけない、レギュラーである。料理がうまく、探偵になりたがっている。年は70歳から80歳くらい。

 工場所有者一族の横暴と戦う、ちょっとプロレタリアの香りがする本作は、いつもながら、いい感じに仕上がった推理小説である。
 前回帰国した恋人モレルも登場し、その「友人」でモレルの家に泊まっているマーシナ・ラヴ(これはやきもちやくでしょう)が重要な役割を果たす。彼女は記者だが、ほとんどのインタビューを色仕掛けでとってるようだ。

 その取材がなにかヤバイことに触れたのか、従業員の男と殺されたマーシナ。ヴィクもつかまって大ピンチである。

 所有者一族の御曹司とバスケを教わっている女生徒のロミオとジュリエットみたいな逃避行がまたいい感じである。
 
 そうそう、この本の中で、生徒に突然、キュリー夫人の話をするあたり、ヴィクのポーランド系のルーツへの関心がうかがわれる。彼女はポーランド系、決してまともに読んでもらえない苗字はそのためである。でも頑固に苗字で呼ばせるけど。今回は幼なじみが多く登場しているので一発OKである。ご存知とは思うがキュリー夫人ポーランド系。フランス人と結婚したので、フランス名前であるが。虫的には、キュリー夫人ローザ・ルクセンブルグなど、ポーランド系では女性の有名人のほうが多い気がする。

 そういえば、シカゴはオリンピック誘致で、東京のライバルである。不景気へのカンフル剤として欲しいのなら、これを読む限り、東京より荒れ方がひどいようだ。ゆずってあげればいいのに。