北朝鮮への関心をもとう〜「ある北朝鮮兵士の告白」を読みました。
韓景旭(かん けいきょく) 新潮新書
北朝鮮情勢が、緊迫している。
核実験を行ったり、ミサイルを何発も飛ばしたり・・・。
人間に例えると、自暴自棄になって、人質をとり、立てこもりをする犯人のようだ。以前の日記で紹介した、アベンジャー型の犯人のようで、とにかく、国際社会の関心を引きたがっているように見える。
北朝鮮の国民は、今や、普通に飢えている。脱北の理由は、ごはんが食べられないから。
ついでに言えば、飢えていても、アメリカの援助は拒否している。
北朝鮮政府もヤケになり、「おりゃおりゃ、核爆弾おとすぞ」といわんばかりである。どうしようもなくなっているのがわかっているのだろう。
最悪のシナリオを考えれば、北朝鮮が東京に核爆弾を落とし、アメリカが報復攻撃として、北朝鮮に核爆弾をおとし・・全面核戦争へ・・・というのもありえなくはない。朝鮮戦争というのは、未だ続いているのだから。なぜ東京に落とすかといえば、日本を嫌ってるから。ってか論理の通じる相手ではないし。
どうみても、北朝鮮は追い込まれている。
私たちはどういった対応を取るべきか?
まず、絶対にしてはならないのが、北朝鮮を無視することである。
思えば、私たち日本人は第二次大戦後、北朝鮮を無視する態度を取り続けてきた。
日本人ばかりでない。他の国もそれぞれ自分のことで忙しかった。旧ソ連も中国も、朝鮮共産党の設立援助などはしたものの、その後は放置していた。北朝鮮の独裁国家は、その政治的空白を利用してにょきにょき育ったモンスターである。
現在の北朝鮮、つまり朝鮮民主主義人民共和国を建てた、金日成は、本人が言っているような抗日レジスタンスの英雄ではない。旧ソ連の傀儡政権のはずが、スターリンよろしく、他の共産党幹部を片っ端から粛清し、独裁体制をうちたてたにすぎない。
しかし、そもそも、北朝鮮が旧ソ連に利用される素地をつくったのは、日本の行った植民地政策、つまり日韓併合である。
私たち日本人にも責任はあるのだ。政治的、道義的に。
終戦時にいくばくかの賠償金をはらったことで解消されると思われるか?
イギリスやフランスを見ると、以前植民地だった国、インドなどにはパスポートを不要にするなど、特典を与えている場合が多い。だから、ロンドンでは、インド系の顔をよく見るし、パリでも旧植民地のセネガルに多い、割と肌の色の濃い顔を見かける。
何より、一度は同じ国民だったわけである。独立したからといって、全くの他人とはいえない。
ところが。
日本は第二次大戦が終わった途端、外国人扱いである。日本にまだまだ多い、在日中国人、韓半島出身者にたいする態度は、「あ、外国人だ。なんでこんなとこいんの?」って感じである。
あのね〜、強制連行とかで、自分達が連れてきたのに。帰国だって、事情でできなかっただけなのに。
一度は同じ「日本人」だったのに。
日本には「旧宗主国」として、韓半島の情勢を見守る度量の広さがほしい。まだまだ、植民地を持てるほど、成熟していなかったのかなと思う。国として。
今からでも、関心を持とうと思う。
ヤケになった犯人は関心を引きたいのであるし、実際無関心だった。われわれは。
人質交渉人は言う。接点を失ってはならないと。
思えば、北朝鮮が日本の関心を引くためにしたことは、まず、朝鮮総連の「帰国事業」がある。「地上の天国」なんていうキャッチフレーズで、在日朝鮮人の気を引き、帰国させる。これがとんでもない大嘘で、着いたのは「地上の地獄」である。北朝鮮に戻っても在日の人は、「資本主義の影響を受けた」として、嫌われる。昔の日本がそうだったように、朝鮮にも親戚同士で助け合うという風習がある。それで、日本に残った親戚に無心の手紙を書かせて、お金などを送らせる。早い話が恐喝である。それでもそれしか、生きのびる方法がない。
テレビで、パチンコ屋の掃除のパートをしているおばあさんが、乏しい給料の中から、北朝鮮に帰った息子家族のため、船便で小包を送っているという情景を見た。
これも、核実験以降の北朝鮮への経済制裁で出来なくなる。
可哀想なのは、息子の家族である。
というか、経済制裁でもっとも犠牲になるのは、北朝鮮の一般国民だろう。
次に、言うまでもなく、拉致がある。
拉致被害者の一刻も早い帰国を願うが、それにしても、スパイ活動のためだろうか。北朝鮮のスパイってどれくらいいるんだろう。そっちもこわい。
そして、ミサイルや核実験につながる。
今一度言う。北朝鮮に関心を持ち続けよう。嫌いでもいい。無関心よりは嫌いなほうがマシである。
一度は、同じ国民だった国なのだ。もはや、他人ではない。だからこそ、イヤな部分もあるだろう。それでもいい。関心を持ち続けよう。
◇ ◇ ◇
前フリが長くなったが、北朝鮮では、15歳ぐらいから25歳くらいまで、ほとんどの男性が、軍隊にあこがれ、入隊する。だから、ごく普通の北朝鮮の人の声と見て間違いない。
韓景旭氏は日本の大学で東アジアの社会と文化を教えている中国の方であり、この本は山東省のキリスト教会堂で出会った、ある北朝鮮人男性の話を聞き書きしたものである。
軍隊というのは、普通の国でもキビしいものである。
それが北朝鮮のなら、とりわけキビしい。
例えば、新兵訓練のときベッドメイキングをして、コインを投げて弾き飛ばされるくらいにする(これはどこの国でもあるようだ)それと、着替えと、中庭に整列するところまで、5分でする。
これを読む前に自衛隊にかんするものを読んだが、同様のことを15分程度で要求されていたと思う。
さらに、食事も必要量与えられない。
兵士たちは、民家から、かっぱらったり強奪するのである。これは、他の国の軍隊とかなり違うところである。
近辺の農家から、豚や鳥をかっぱらい、それをさばく。
ドロボー集団である。
さらに、様々なものを強奪し、上官へのワイロにあてる。
兵隊さんを見たら逃げたほうがよさそうである。
この人は軍隊から、大学にすすみたかった。
そのために、上官らに付け届けをしたり努力した。
しかし、母方の出身成分に、地主がおり、ダメだった。
出身成分というのは何か。
北朝鮮は、チャンスにあふれた平等な国ではない。それどころか、親やご先祖様で、生まれながらに身分が決まる超身分社会である。親や先祖の身分を出身成分といい、一番上が朝鮮労働党幹部、下が地主階級で細かく何百もに別れているらしいのである。この人はかくそうと、必死でワイロをばらまいたが、こっそり調べられて、アウトだった。これは不合理だと思う。まーそんな国だから仕方ないが。
軍隊の後、夢のような国の噂を聞いた。
その名は中国である。
中国は、まるでこの世の天国であり、「真っ白なごはんが食べられる」(銀シャリですな)、「肉はいつでも食べられる」(まーね)「百貨店や個人の家には見た事もないような物でいっぱいである」(中国のデパートはサービス悪いけどね。日本に来てごらん!)「道端で食べ物をひろいながらでも生きていける」(うんうん。コンビニやファーストフードチェーンのゴミでも生きていける)
北朝鮮では、朝ごはんを食べたら、次の食事が心配になる。お腹が空いて、食べ物のことしか考えられない。
それに比べたら、まさに天国である。
越境には、危険がいっぱいであったが、北朝鮮で死を待つより、いちかばちか越境しようという気になった。
この人は妻子を連れ、脱北に成功する。
北朝鮮では、大部分の人が飢えに苦しんでいる。
他方、中国の農村は嫁不足に悩んでいる。一人っ子政策+男尊女卑のため、女性が少なく、その女性も都会や日本に出稼ぎに行くからである。とりわけ、中国東北部に多く住む朝鮮族の男性にとっては、同じ朝鮮族なのだから、需要が高い。
そこで、北朝鮮の女性が、中国の農村部に人身売買されることも珍しくないという。
多くの問題をかかえた国、北朝鮮の普通の人の声が聞けたという意味では有意義な本だったと思う。
最後にもう一度言う。我々は隣人に無関心であってはならないと。
「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して
他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、
この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、
他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」