色々な仕事があるものだ〜「王女マメーリア」を読みました。(1)

               ロアルド・ダール  田口俊樹 訳   ハヤカワ文庫


 ロアルド・ダールの短編集である。

 子ども向けの本の「チャーリーとチョコレート工場」が、以前ジョニー・デップを迎えて映画化されたが、その原作者である。子供向けの作品ばかりでなく、大人向けのものも書いている。大人向けのものは、ペーソスがきいた短編が多く、奇妙な味を感じさせる作家たちの1人である。


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 ところで、自分の職業に誇りを持つというのは素晴らしい。そうは思わないだろうか。

 ウェイターであれコックであれ、掃除婦(夫)であれ、自分の仕事に誇りを持ち、丁寧にしている人は、それだけでも、感動を呼ぶ。

 その仕事で得た技術を最高度に磨き上げたとなれば、それは一種の芸術と呼んでよい。

 主人公がたまたまヒッチハイクした人物は、疑いもなく、自分の職業に誇りをもっている。その誇らしさは並大抵の物ではない。

 最初はなかなか教えてくれず、それは当然、主人公の好奇心をそそる。
 なんせ、競馬場へ行くと言って置きながら、「馬に金をかけるなんてバカですよ」と言うのである。
 確かに・・・しかも人ごみといえば誰かさんには、金鉱である。

 その仕事はスリ。あ、本人は指細工師と呼んでいる。

 誇りに思うだけあって、主人公が全く気付かないあいだに、ベルト、靴ヒモの片方を抜き取っている。いや素晴らしい。確かに芸術である。

 スピード違反の取締りをするオマワリの手帳をスって、違反キップを切れないようにしてくれる。

 いいなぁ、スリの友達。1人は欲しい・・・なんて思わせる「ヒッチハイカー」、最初の短編である。

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 ところで、電車の駅で、「家の帰る電車賃がないから、貸してくれないか。」と無心されたことはないだろうか。虫はある。たしか、上野駅で。もちろん断ったが(すぐに別の人に頼んでいた)。もちろん、帰る電車賃がないなんてことはない。そうやって小銭を騙し取るのである。寸借詐欺という。
 外国ではよく聞くが、警察に相談すれば貸してくれる日本では、手口としてどんなもんだろうと思う。もしそういったことを言われたら、親切に、警察署に相談すれば、貸してくれますよと教えてあげればよい。大きい駅にはだいたい交番があるし。

 主人公は12歳の女の子とその母親。
 
 このお母さんがあったのは、そのちょっと変わったバージョンである。

 雨がザーザー降り始めた。カサを忘れたのでタクシーでかえることを、母親と女の子は検討していた。

 すると向こうから、男の人がやってきて、持っている大きい男物のカサを使ってくれる代わりに、帰りのタクシー代が1ポンド足りないので、カサ代としていただけないかという。

 見ると、カサは上等な男物で、シルクで張ってある。普通なら20ポンドはしそうなものである。

 タクシー代全額払いましょう、とお母さんが言うと、1ポンドでいいという。

 考えたあげく、お母さんはその取引を受けることにした。1ポンドで上等なカサが手に入るのだから、けっこうな取引である。

  その後、親子はその男の後をつけてみた。すると、こんなからくりだった。

 男はパブに直行。その1ポンドを惜しげもなく(もともと彼のものではないが)使って、上等のウィスキーをトレブル(普通の量の3倍)で飲む。顔は輝き、至福の時である。最後の1滴まで飲み干し、舌を出してまわりの鬚をなめる。→カウンターを離れると、パブのコート掛けから、コートと帽子をとる。そして、何食わぬ顔して、濡れたたくさんのカサの1本を取る。→別の若い男性から、そのカサで1ポンドをせしめる。→また、別のパブに直行して・・・

 このお母さんは、この人雨が降るのを楽しみにしているというが、たしかに、この詐欺は得意そう。そうでない時も別の詐欺をしているとは思うが。

           「アンブレラ・マン」