アメリカ人から見たイタリアの魅力〜「一瞬の光」を読みました。(1)

     アーロン・エルキンズ  秋津知子訳     ミステリアス・プレス ハヤカワ文庫

 先日、TVで「ダヴィンチ・コード」を見たが、ごらんになっただろうか。

 これは本の感想で映画の感想ではないので、詳細は控えるが、最初に見た時は全くのお笑い種(ぐさ)だと思ったが、この間見た時は、(ま、可能性としてはありうるかも)と思った。しかし、次作の宣伝に来たトム・ハンクスが言うように、「バチカンの逆鱗に触れた」なんてことはないと思う。もしこれで怒るようなら、バチカン知的水準が相当低下した証拠だろう。この手のモノは無視をするのが正しい。その程度のものである。面白いことは面白いけど、知的な面白さではない。キリスト教には、正式に認められた聖書や教え以外の俗説がある。これは非常に多くて面白い。この「ダヴィンチコード」は、そういった俗説を次から次へと紹介していて、そういう意味で嬉しくなってしまうのだ。

 しかし、この「ダヴィンチ・コード」も、舞台がヨーロッパの歴史だからこそケムにまかれるのである。アメリカ人というのは、一般的にヨーロッパの伝統、とりわけ知的分野における伝統にヨワい。
 歴史が短く、「文化的伝統」においてはヨーロッパには勝てないと思っているためかもしれない。コンプレックスがあるのだ。

 この本は、以前紹介した、ギデオン・オリヴァーシリーズのアーロン・エルキンズの別のシリーズである。
 シアトルの美術館に勤める学芸員、クリス・ノーグレンシリーズの2作目である。

 はっきりいうと、ギデオン・オリヴァーとの違いは、顔が童顔で学芸員に見えないとこだけである。1作目で知り合い、この作品で再会するアン・グリーン大尉なんて、ギデオン・オリヴァーの奥さんと、全く同じ癖まである。違うのは、顔と職業だけ。ちょっとは変えれば〜?

 ま、とにかく、この本にはアメリカ人がイタリアに感じる魅力、メロメロなところが詰まっている。

 原作ではどうなっているのかわからないが、刑事警察に(ポリツィア・クリミナーレ)、国立絵画館に(ピナコテーカ・ナツツィオーレ)と、いちいち、イタリア語読みの読み仮名がふってあるのも嬉しそうだ。

 ま、外国語ってのはそれだけでなんか嬉しいのはわかる。日本における外来語を見ればいい!ちょっとわからないような外国語を選ぶのがポイントだろう。

 とりわけ、クリスの友人で画商兼絵画修復家のマックス・キャボットは、アメリカにないものをイタリアで発見したらしく、イタリアに住んでいる。マックス・キャボットを捨て去り、マッシミリアーノ・カボート(イタリア語読みである)になっている。

 酔っ払うと、イタリア礼賛を始める。

 確かに、イタリアの歴史は、長く、私たちにもなじみである。

 「グィード・レーニ(版画家だそうで、知らなかった)、ガルヴァーニ(カエルの足に電気を通したひとですな)、マルコーニ(無線を発明)、グレゴリオ暦(・・・これはイタリアゆーより、キリスト教だろう)。」と並べ立てる。

 うーん、確かに。

 でもアメリカだって、IBMとか(人じゃないケド)、トーマス・アルバ・エジソン(電球の発明者です!)とか、ノーマン・ロックウェル通俗的すぎるかな?虫は好きなんだけど)とか、たくさんいるではないか。

 歴史が長いってとこに、惹かれるのかね・・・もちろん、イタリアは魅力的な国だけどね〜。でも自分の国を捨て去るだけの価値があるのか・・・。とマックスの国外流浪者の嘆きはつづく。

 住むのはともかく・・・、イタリアは、ホントに魅力的である!

 ◇   ◇    ◇

 クリスのイタリア旅行記として読んでも面白い。本筋の絵画の盗難にまつわるあれこれは置いといて。

 バール(軽い食事を出す喫茶店)で、コーヒーを頼んだ後のお店の人の動きを細かく描写しているのも面白い。よっぽど気に入ったのだろう。

 盗難がらみでマフィアのチンピラから暴行を受け、車でひかれるとゆ〜立ち回り。

 こんなイタリアめったに体験できません。病院に入院したり・・・。

  実はクリスは絵画盗難事件に協力するよう、FBIの依頼で上司から指令を受けていた。捜査の担当者が、「ロンバウディアの鷹」とあだ名があるチェーザレ・アンテゥオーノ大佐である。美術品の盗難のために組織された特別部隊である。

 実際に会うと・・・貧相でどっから見ても事務員・・・。

 がっかりしたのは、無理もない。

 しかも、絵画を回収するために、犯罪者を見逃すという。国家的美術品の回収が優先で、悪党を取り締まるのは後。それでも回収率が50%って低いと思うが。ちなみにインターポールは10%って、ほとんど、ザルやんけ!

 以前だったと思うが、ムンク「叫び」がみつかったのは、奇跡に近いということかな?今の数値は知らないけど。あの絵はあんまり好きじゃないけど、人類の宝であることは確かだから、見つかってよかった!

 ところで、このクリス、学芸員だが、専門領域が非常に狭い。現代抽象絵画がまったくダメなのだ。得意なのは、ちゃんと見てわかるものが書いてあるピカソ以前のモノ。この本で出てきた、ルノアール、ヴァン・ダイク、テルブルッヘン、カラヴァッジオ、ウィテバール。ただし、チマブーエは好きではない。

 ところで、ボッティチェリの「ピエタ」を美術館で見た事があるが、正直に言ってそれほどでもなくてがっかりした覚えがある。わざわざとりよせた展覧会だったが。この本で、ボッティチェリが老年になってからの作品で、出来がよくないと書いてあったので、あの感じは正しかったんだと思った。(ピエタは、キリストがはりつけになった後の聖母マリアの嘆きをあつかったものである)「ヴィーナスの誕生」は好きだが。

 あと、この間見た、ヴァン・ダイク展も、ヴァン・ダイクの作品ではいいのが、1〜2点しかなく、他のオランダ人画家の方が、よっぽど良かった。

 おそらく、企画した日本の美術館の学芸員がダメなんだろうと思う。

 やはり、いいのは、現地でみることだ・・・うっ、高いな。

 虫も抽象画はちょっと苦手で、ピカソとかクレーとかそんなに好きではない。いい絵だってことはなんとなくわかるけど。でもなぜか、モンドリアンカンディンスキーは好き。

 イタリアの話をしようと思ったが、話がそれた。また次回。