洗脳という魔法〜「銀のいす」を読みました。

    C・S・ルイス   瀬田貞二 訳     岩波少年文庫


ナルニア国物語 4》

なんだかんだ言いつつ、またナルニア国シリーズにはまっている。

 大人になってからだと、ちょっと批判的な観点もはいってくるけど、でも、面白い。うん。

さて、この「銀のいす」には、ペベンシー家の子供達は出てこない。ナルニア国というのはある程度の年齢になると、つまり、子どもじゃなくなると、「卒業」するという設定になっていて、少なくともこれを書いた時点ではルイスはそうしようと思っていたようだ。

「カスピアン王のつのぶえ」では、年上のピーターとスーザンが、前回紹介した「朝びらき丸、東の海へ」では、年下のエドマンドとルーシーが、それぞれ、最後にアスラン自身から「卒業」を告げられて、もうナルニアに来れないことがわかる。

 もっとも、「最後のたたかい」ではルイスはこのアイディアを放棄したみたいだけど、それはまた別の話。

 この話の主人公は、「朝びらき丸、東の海へ」に出てきた最初はイヤミだったいとこユースチスと学校の友達のジルである。

 いじめられっ子のジルが体育館裏で泣いていると、ユースチスと遇い、二人はいじめっ子から逃げるために、扉をあけると・・・ナルニア・トリップである。

 しかも、今度はとても高い山の上・・・、後でそこは、ナルニアの天国・・・俗に言うあの世であることがわかる。

 「朝びらき丸、東の海へ」でははつらつとしていた若者だったカスピアン王が、すっかり年をとり、病気になってしまった。もう長くないかもしれない。

 そこで、行方不明になったリリアン王子を探しに行くようにというアスランの命令である。


 それで、リリアン王子を見つけるんだけど・・・いや、このリリアン王子の状態が面白いのなんのって!

最初会った時に、全く別の名前をなのり、「姫」を尊敬しているだけど、そのうち「姫」が征服してくれる地上の国(あ、地下の国で見つけたのね)の王になる予定だって二人に語るのですわ!
 その「姫」が実は邪悪な魔女で(しっかしこのシリーズ邪悪な魔女多すぎ!)洗脳してたわけでね。

 でね。夜中のひと時に洗脳が切れて、もとのリリアン王子が出てくるので、銀のいすにしばりつけとくそうな。

 邪悪な魔女って、カルト教団かなにかかな?夜中に洗脳が切れるあたりが、カルト教団よりちと劣るけど。

 ま、とにかく、この「洗脳された状態」のリリアン王子は、ジルやユースタスに(むかつくヤツ)という印象を与えた。軽薄っていうか・・・、後で本当のリリアン王子の人格が出てくると好意を持つけどね。

 そうそう、ナルニアで仲間にした沼人の「泥足にがえもん」が、いいキャラ。悲観主義者だけど。

 その後、邪悪な魔女(今度は緑の魔女)が、また全員洗脳しようとするんだけど、この時の泥足にがえもんの対応がいいので、引用しておく。ここはルイスの本音のような気がする。暖炉に行ったのは、催眠状態を作り出すお香のようなものを足で踏み消したからである。

「ひとこと申し上げたいんでさ。姫さま。」と泥足にがえもんは痛みのあまり足をひきずりながら、暖炉からもどってきていいました。
 「ひとこと申しまさ。あなたがおっしゃったことは全部正しいでしょう。このあたしは、いつもいちばん悪いことを知りたがり、その上でせいぜいそれをがまんしようという男です。ですからあたしは、あなたがおっしゃることがらを、一つとしてうそだとは思いませんさ。けれどもそれにしてもどうしてもいいたいことがありますとも。
 よろしいか、あたしらがみな夢でみているだけで、ああいうものがみな───つまり、木々や草や、太陽や月や星々やアスランその方さえ、頭の中につくりだされたものにすぎないといたしましょう。たしかにそうかもしれませんよ。だとしても、その場合あたしにいえることは、心につくりだしたものこそ、実際にあるものより、はるかに大切なものに思えるということでさ。
 あなたの王国のこんなまっくらな穴がこの世でただ一つ実際にある世界だということになれば、やれやれ、あたしにはそれではまったくなさけない世界だとやりきれなくてなりませんのさ。それにあなたもその事を考えてみれば、きっとおかしくなりますよ。
 あたしらは、おっしゃるとおり、遊びをこしらえてよろこんでいる赤んぼ、かもしれません。けれども夢中で一つの遊びごとにふけっている4人の赤んぼはあなたのほんとうの世界なんかをうちまかして、うつろなものにしてしまうような、頭のなかの楽しい世界をこしらえあげることができるのですとも。そこが、あたしの、その楽しい世界にしがみついてはなれない理由ですよ。
 あたしはアスランの味方でさ。たとえいま導いてくれるアスランという方が存在しなくても、それでもあたしは、アスランを信じますとも。あたしは、ナルニアがどこにもないということになっても、やっぱりナルニア人として生きていくつもりでさ。
 では、けっこうな夕ご飯をいただいて、ありがとうございました。そちらの二人の殿と若い姫との用意がよろしければ、さっそくにあなたのご殿をさがり、このさき長く地上の国を求めてさすらおうとも、暗闇のなかを出かけてまいりましょう。
 どうせあたしらの一生はさほど長くはありますまい。しかしあなたのおっしゃる世界がこんなつまらない場所でしたら、それはわずかな損失にすぎませんから。」
「やあ、万歳!泥足にがえもんさん、でかしたぞ!」スクラブ(ユースチスの姓)とジルが叫びました。


 これも、ちとガリヴァー旅行記風。

 ではでは。