兄が遺したもの〜「直線」を読みました。

         D・フランシス   菊池光訳   ハヤカワ・ミステリ文庫

 
  兄が急死した。

 騎手デリックの兄は宝石を商う会社を経営していた。

 突然工事現場の足場が上から落ちてきて、その下敷きになり死んでしまったのだ。

 デリックの現在は騎手生活につきものの、ケガの養生期間。松葉杖をついている。

 いそいで病院にいき、最期をみとり、兄の持ち物を受け取る。

 兄はいろいろなものを残してくれた。

 準宝石を扱う会社。準宝石業界トップレベルらしい。会社で顔合わせをした後、デリックが騎手であることが、競馬好きの社員から漏れてくると、社員は不安そうな顔をする。やはり偏見があるのだ。それを悟って、騎手を背負い込んじゃったんだからしかたない・・・とユーモア交じりに言う。賢い。

 兄の机。すべすべしたある部分を押すと・・・おっとネタバレ注意!

 子道具類。兄は、小型パソコンなど、さまざまな電子機器を集めるのが好きで、会うと最近手に入れた物の話をよくしていた。しかし、個人的なことは一切話さず、長い間しゃべっても、自分自身のことを全くしゃべらないワザを身につけていた。
 (こういう人にはあこがれる。ずっとしゃべっていても、個人的な、話してはいけないことをしゃべらないというのはなかなかできない。誰でも自分のことをしゃべりがちだからだ。)

 だから、兄の愛人のことは全く知らなかった。彼女が既婚者なので言うわけにはいかなかったのだろう。結果的には、彼女もひきつぐことになる。

 競走馬ももっていた。騎手は馬を持ってはいけないので、苦慮したが、会社名義にし、世話になっている馬主さんに売却できた。

 そして、兄の敵もひきついだ。
 兄の残した手回りの品を狙って、2度までも襲われ、殺されそうになる。家や会社に「荒らし」が入る。なにか兄のものをねらっているようだ。

 兄の残した最大は、何といっても謎だろう。なぜ襲われるのか。なぜ、普段はあつかわないダイヤモンドを買い入れしたのか。そのダイヤモンドはどこか。(みつからないと会社はおしまいである。銀行の借金が残っている)

 兄が残したものを引き継ぐ過程で、本当の兄の姿をはじめて知る。ひそかにデリックを誇りに思っていたことも・・・。

 今なら、兄をからかったり、こうしたことについて話し合いたいと思っても、それはできない。
 しかし、引き継いだのは兄の物だけではない、デリックは兄の遺した人生を生きはじめる。