自由を求めてナルニアへ〜「馬と少年」を読みました。

             C・S・ルイス  瀬田貞二訳      岩波少年文庫


 ナルニア国シリーズの第五話である。

 ナルニア国シリーズの第一話、「ライオンと魔女」についてはご紹介した。次は第二話の「カスピアン王子の角笛」・・・ではなく第五話を先にご紹介する。

 もっとも特に不都合はない。ナルニア国シリーズはそれぞれ独立しているので、どこから読んでもいいのだ。
 ライオンと魔女でちょっと触れたが、ナルニア国とこの世界とでは、時空の流れが違う。タイムスリップのようなもので洋服ダンスの扉などを通って、ナルニアに行くと、中でどれだけ長い時間を過ごそうと、また、入っていった瞬間に戻ってくるのだ。だからライオンと魔女だけは最初に読んだ方がいいけど。

 「ライオンと魔女」でナルニア国に行った、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーのペヴェンシー家の4人兄妹は、4人ともにナルニアの王、女王になり、ナルニアを治める仕事を長い間行った。

 この「馬と少年」は、その治世の話である。ナルニアの時系列的にはライオンと魔女のころである。4人は王様の仕事をちゃんとやっているようである。
 4人が出てくるし、最初にルーシーをお茶によんでくれたタムナスさんも、老重臣としてちょっと出てくる。

 とはいえこの話の主人公はシャスタという少年。

  ◇   ◇   ◇

 シャスタは、貧しい漁師を「父」と呼び、家事その他一切の雑用をやらされていた。ある日、身分の高そうな男がやってきて、シャスタを奴隷に買うという。「父」はできるかぎりの高値で売ろうとしていた。その男は、シャスタと「父」の肌の色の違いから、本当は息子ではないと見破る。そう、昔ゆりかごでながされているのを拾った子だという。
 シャスタはその話を聞いて悲しくなる。でも今でも奴隷のようなものだから、その男が金持ちでいい人ならよりよい暮らしができるかも・・・と馬小屋で考えていた。

 すると、話しかけるものがいた。馬だ!!
 馬はナルニア国出身なのでしゃべれるという。少年と馬がいるのは、カロールメンというところ。ナルニア国とは隣の隣ぐらいだ。あっちの世界で物をしゃべる動物はなぜかナルニアに限られているようだ。
 馬は、その主人は全くいい人ではないといい、よかったら一緒に逃げようと誘う。馬も逃げることを考えていたが、人間が乗っていないとすぐに逃げたとバレてしまう。それで一緒に逃げてくれる人間を探していたのだ。あ、名前はブレー。
 二人は手に手(前足?)をとって、逃亡をはかる。

 途中でひょんなことから、意に沿わない結婚をさせられようとしているお姫様、アラビスと、同じくナルニア出身のメスの馬、フィンと出会う。アラビスも結婚を強制させられるのがイヤで、フィンのふるさと、ナルニアを目指していた。

 さらに、途中で、ナルニア国の王と女王の一行、つまりペヴェンシー家の4人の兄妹に遇う。っていうか見る。スーザン女王はカロールメンの王子に求婚された(もうそんな年頃なのだ)。カロールメンに来てみたが、自国での振舞いからとても冷たい、性格が悪い人だと分かり、やめることにする。ナルニアでは誰も無理強いなんてしないのだ。宴会をするふりをして船に戻り、ナルニアに帰ろう!という作戦をタムナスさんがたててくれて、見事に成功する。

 これに腹を立てたカールメンの王子は、スーザン女王を手に入れるため、ナルニアに戦争を仕掛ける計画をたてる。まず、ナルニアの隣の国で友好国のアーケン国を征服し、もともとめざわりに思っていたナルニアに入ってスーザンを誘拐して帰ってくるというものである。王のひそかな承認を得て、作戦を開始する。

 これをアラビスが聞いていた。4人はばらばらになってしまい、アラビスは姫様友達(いい子だがファッションと男の子にしか興味のない女の子、現代でもよくいるタイプである)にかくまわれて宮殿にいたのだ。

 また4人が一緒になったとき、アラビスはすぐにナルニアに伝えなくてはという。4人はできるだけ急ぐが、ライオンに追われてアラビスは負傷する。シャスタはナルニアに急を知らせて、ナルニアアーケンの連合軍で迎え撃つことが出来た。

 シャスタは実はアーケン国のコル王子であることがわかる。


      ◇   ◇   ◇

 さて、絵解きである。
 以前にも書いたが、C・S・ルイスは大学生ぐらいにキリスト教に再入信している。(イギリス人ならたいてい赤ちゃんのころかごく小さい頃に洗礼を受けてクリスチャンになるから)改宗者のようなものであり、俗に改宗者ほど、狂信的あいや信仰が厚いというからだ。
 ってことで、このお話も聖書を思わせるところがたくさんあるので、ちょっとお話したい。別にキリスト教を勧めているわけではないが、聖書自体は面白い読み物だと思う。

 シャスタの、赤ん坊のころに宮殿での陰謀から守るため、ゆりかごごと湖に流された話は、旧約聖書に出てくるモーセが赤ん坊のころに葦で編んだゆりかごでナイル側を流され、エジプト王家に拾われたという話を連想させる。
もっとも、これは平民(ユダヤ人)→王家で、シャスタのように王家→平民ではないけど。
 モーセの時代、ユダヤ人は、エジプトの王様、ファラオの奴隷であった。モーセユダヤ人達を奴隷の身分から解放し、エジプトがら脱出することを成功させた。シャスタ一行の逃避行は、広大な砂漠をユダヤ人達が、自由を求めて旅を続けるイメージと重なり合う。人数は少ないが。
 いくつもの家族をかかえたユダヤ人達が自由を求め、中東の厳しい自然の中を逃げ出すのは大変だったろう。それでも、自由の方が大切なのだ。ここらへんとか確か昔映画になってたと思う。
 神様(聖書なので)がサポートをしてくれて、湖だったか海だったかを割って通れるようにしてくれるとか、「マナ」というパンみたいなものを降らせて飢えをしのがせてくれる。ちなみにこの旅の後半で有名な「十戒」をモーセが神様からもらってくる。
 シャスタの一行も、アスランによって守られる。やはり神様っぽい・・・!

 育てのお父さんに奴隷に売られるところは、ヨセフの話を連想させる。モーセに先立つ話で、兄弟によって奴隷に売られてしまうのだ。
 ヨセフはエジプト王家に売られ、神様から予知夢の謎解きを与えられたため、エジプトの飢饉から国民を救って、大臣として重用されるようになる。
 このヨセフが家族を呼び寄せたのが、ユダヤ人がエジプトのファラオの奴隷になるきっかけであった。

 これも面白い話なので、チャンスがあったら読んで見るといいかも。
旧約聖書といっても分厚いが、モーセの話は出エジプト記。ヨセフの話は、一番最初のアダムとイブの話とかもある創世記の40章あたりである。

 ではでは。