ちょっと気になるあの方の財布の中身〜「天皇家の財布」を読みました。

             森 暢平         新潮選書




 天皇家はよく、外国の王室と比べられる。

 でも、多分外国の王室とはかなり違っている面があって、外国人にちゃんと説明したほうがいいと思ってる点は二つある。

 一つは、天皇家自体はかなり長い間続いているけど、他の外国の王様とちがうのは、日本国の実質的支配権力を持っていたためしがないこと。いや、権力を持ってたこともあったとは思う。うん。藤原家の摂関政治以前とか・・・かなり前のことだ。それ以来日本の歴史をざっと見ても、天皇とは、時の権力者が、政権の正当性を誇示するための飾りとしか思えない。例外は南北朝とか、明治維新以後だけど、明治については、本当かな〜と思う。薩長の実力者が実質的権力者だったのではないかとにらんでいる。ま、それはともかく。今の天皇制は象徴天皇。つまりお飾りではあるけれど、「お飾り」には慣れているんじゃないかな。
 こんな王室ははっきり言って聞いたことない。イギリス王室は長い間、実質的に支配してきたし、今でも天皇よりは権力はあるらしい。イギリスの歴史では、王様の家族で殺し合いが多い・・という印象だけど、日本はそうではない・・というか、実質的権力がないんだから、「王様」天皇になってもうまみがないからかも。フランスの絶対王政は(革命で消えたけど)、もう立派に支配してたし・・・。どこの王様でも、現代では違うにせよ、国を実質的に支配していた時期が長かったのではないかなと思う。天皇家よりは。

 もう一つは、天皇は、日本神道の最高位の祭司であるという点である。日本神道という、日本のオリジナルな宗教で、一番偉い祭司である。だから、「まつりごと」と言っても、宗教関係の行事でご多忙である。日本を支配していいよと言われても、そんなヒマはないかもしれない。・・・考えてみると、だから、時の権力者(源頼朝とか徳川家康など)が飾りとして使ったのかもしれない。日本で政権を握るためには宗教的な正当性が必要なのかもしれない。

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 まぁ、そういった考察はまた別の機会に。今回は、天皇家のお財布はどうなっているのかな〜というお話である。

 天皇・皇族の活動のために「皇室費」という予算項目がある。これはさらに、「宮廷費」・「内廷費」・「皇族費」に分かれる。
 「宮廷費」は皇室の公的な活動に使われる。宮廷晩餐会や園遊会、植樹祭での地方訪問などである。
 「内廷費」は生活費を含む天皇家の私的費用だ。天皇家へのサラリーである。美智子様のピアノの修理代金などである。
 「皇族費」は天皇家以外の皇族の私的費用である。

 「公私混同をつつしめ!」なんていうけど、天皇家ほど、それがやっかいなところはないだろう。鉛筆一本とっても、天皇陛下が公務で使うなら、宮廷費愛子さまの教材用なら内廷費ということになる。
 よその王族が遊びにきた!なんてときも、来日の目的によって、プライヴェートなものなら、費用は、ポケットマネーから出る。ベルギー皇太子夫妻来日の折は、その費用は皇太子夫妻のポケットマネーから出した。

 「内廷費」・「皇族費」は「お手元金」とも呼ばれる。


 まずは「宮廷費

  「宮内庁病院」の予算はここから出ている。宮内庁職員や天皇、皇族の病気治療にあたっている。紹介があれば、一般の患者も利用できる。しかし、赤字である。それもそのはず、外来患者数の一日平均が病院職員数より少ない。
  総合病院だが、規模からいって、全ての疾患に対応することは不可能である。だから、天皇家の方々もここ以外の病院にも入院される。
  筆者は風邪で何度かお世話になったが、地方の古ぼけた病院のようだったという。

  栃木県にある「御料牧場」は宮中晩餐会などに、新鮮な食材を調達している。無農薬というのはよいのではないか。もちろん、それだけでは足りないので、別途築地などから材料を仕入れる。
  この本の著者は、宮内庁担当の新聞記者だった。宮中晩餐会のお余りをいただいたこともあるそうだが、冷えていたせいか、「こんなもんか・・」という感想だったそうな。

 「宮廷費」の中で、最も割合の多い(68%)のは、土木・建築費である。
  たしかに都心の一等地に皇居をお持ちだし・・・と思ったら、ソコだけではない。
 あ、でも、皇居も広いので管理費がかかる、2001年5月、つまり一ヶ月分だけで、東京都水道局に930万円、東京電力に840万円、東京ガスに340万円・・・。なお東宮御所は別。
 赤坂御用邸や御陵、宮内庁などたくさんある。他にも皇族方のおやしきとか・・・。

 他にも、旅行の際のホテル代は、慣行があり、2万円以上はしそうな部屋でも、天皇家ご一行に限り2万円とか・・・。まぁ「○○様もお泊りになった・・」とか言えるから、長い目で見ればモトがとれるかも。
 

 さて次が、「内廷費天皇家の私的な生活費用である。

 これが1年あたり3億2400万円。しかも、手取りである。

 やっぱりリッチだよねと思う?うんうん。でもね・・・それほどでもないんだよね。

 だって、最初に書いた通り、天皇家は、神社とかに住んでいる宮司さんのベスト版なわけで、日本神道関連で使われている人は個人的な使用人になる。
 逆に言うとそうやって、政治と宗教を分離しなくては!という政教分離の建前を守っているわけだ。
 そういう「召使」(というかホントの宮仕えだね)は外出したら清めの儀式を受けなければいけないとか、何かややこしいことにしばられて暮らしてる。ま、本人の意思だし、宗教は自由だからいいけど。
 他にも、天皇陛下の個人的趣味、生物学の研究や皇后様が代々なさっている養蚕も。

 さらに、「祭祀」のための費用も8%ほどいるそうである。

 実質的なお小遣いは、年500万円(1人当たり、推定)。

 ちなみに内廷費を直接管理するのは、天皇陛下でも皇后陛下でもなく、宮内庁の役人である。

 「皇族費
 天皇家ほどの予算ではないが、、その代わり、祭祀のお金はいらないし、交際費も少なめ。それでもけっこう苦しそうである。


 では、毎年の予算ではない財産はどうだろう。

 実は、皇居も御用邸もみな天皇家の所有ではない。皇室用財産であり、国から天皇家が借りているのだ。天皇家は不動産を所有できないことになっている。
 
 天皇家が財産を有することも本来認められていない。

 しかし、ヘソクリ程度はよいのでは・・ということで、毎年の内廷費からコツコツためた金融資産はあるらしい。

 この本にちらっと、万が一離婚ということになったら財産分与はどうなるのか・・とあって、ありえないと否定している。

 今の天皇陛下ご夫妻、皇太子殿下ご夫妻は円満そうだからいいけど、将来的には、そういったことも起こりかねないんじゃないかな。

 それでは。