三国志あれこれ〜「原典を味わう三国志物語」を読みました。

               今西凱夫      日本放送出版協会

 
 ところで、中国語はおできになるだろうか。
 世界で一番話す人が多い言語である。華僑は世界中にいるからどこに行っても中国系の人となら言葉に困らない・・・北京語だけではなく福建語なども学ぶ必要はあるが。
 何よりフランス語と並んで、言葉の響きが美しい言語の一つだと思う。個人的意見だが、フランス語、アラビア語、中国語は、(どれも何を言ってるのかはわからないが)言葉の響きが美しいと感じる。
 お恥ずかしいことながら、虫は中国語はダメである。学んでみたいという気持ちはある。虫の母親は中国語ができる。昔、唐詩を音読してくれたその美しさは忘れられない。
 映画「レッドクリフパート2」も母親と行ったので、上映が始まる前の時間、「これって中国語でなんていうの?」攻撃を多用して、インスタントの中国語講座をご教授いただいた。
 お陰で、たった一言、聞き取れたセリフがあったのが嬉しい。
 それは「劉備〜?(リォ・ベィ〜)」である。
 中国語には「四声」というイントネーションの規則があり、その通りに言わないといけないし、日本語にない発音も多い。英語より難しいと思う。インスタントの中国語講座でも、アゴが疲れた・・・。

 この本は三国志の原典が載っているので、中国語が出来る方は是非音読して響きを楽しんでいただきたい。虫はもちろんスルーして、横の日本語の解説を読んだ。
 レッドクリフパート2の感想かたがたという感じである。
 もし、映画を見るのなら、ネタバレの感じがあるので、読む前に考えていただきたい。
 別の見方を提供するかもしれないが。
 
 ☆★

 映画では、周瑜(しゅうゆ)の妻、小喬(しょうきょう)が色仕掛け・・・てほど露骨でもないけど、お茶を一杯曹操にふるまい、そのために曹操は出撃の機を逃がす。

 これは、三国志には全くない。男ばかりでは視聴率(?)がとれないかもと思って、ジョン・ウー監督が入れたと思われる。「男たちの挽歌」からジョン・ウー作品は色々見てきた。どれもすばらしいと思う。しかし、以前から思っていたが、ジョン・ウー作品の戦闘シーン、いわゆる立ち回りは本当にすばらしいが、恋愛シーンはいまひとつである。もちろん、アクション物の恋愛は添え物なので差し障りはないが。
 お茶を飲むだけ?というのが、微妙に嘘くさい。
 
 三国志の色仕掛けといえば、曹操の前に権力者となった薫卓が横暴をつくしていたころ、その臣下で勇猛な武将呂布という人がいた。そこに、貂蝉(ちょうぜん)という名の美女を使って、薫卓には、「アナタだけを思ってる」といい、呂布には「アナタを思っているのに薫卓がむりやり・・・」などといって、呂布に薫卓を殺させるという計略があった。(美女連環の計)これぐらいでないとね。

 なお、小喬は実在の人物であり、お姉さんの大喬とともに、美人で知られていた。お姉さんは、孫権の死んだ兄で前帝の孫策と結婚している。だから周瑜孫権は、いわば義理の兄弟のようなものである。

 ☆★

映画では、「苦肉の計」が省略されている。

 苦肉の策という言葉で今に残っている「苦肉の計」は、周瑜(しゅうゆ)の老臣・黄蓋(こうがい)が、周瑜から鞭打ちの刑にあい、これを恨んで曹操に下る・・・ふりをする策略である。鞭打ちは実際に行ったため(真実を知るのは周瑜黄蓋だけだった)、曹操は降伏を信じたのである。
 もちろん、内部から火をつけるためである。苦肉の策は苦しまぎれの策という意味だが、ちょっと意味が変わっている。「敵を欺くには、味方から」という言葉のほうが合っているかも知れない。

 映画では、案として提出したものの採用されなかったことになっている。

 ☆★

 映画でちょっと嘘くさい・・・と思ったのは、最後に周瑜や他のメンバーが曹操を見逃すシーンだろう。

 ほとんどまったく罪のない魏の兵士たちをあれだけ殺しながら、悪の親玉、曹操をなぜ見逃す・・と思う。少なくとも映画見た時にはすぐ思った。
 史実と違っていいから、殺すべきでは・・・?

 ちなみに三国志では、曹操は逃げ出す。(さすがは悪党である)

 しかも曹操の悪さがむきだしである。魏の国に帰る道がぬかるんでいて、馬の足がとられ、動けなくなる。兵士に道を埋め立てさせたが、急いでいるのでその兵士の上を馬で通る・・・ひどい。

 映画でも船の焼き討ちの後、背面から劉備軍の張飛、超雲が攻め込んできたのは、三国志の通りである。では、劉備軍のもう1人の武将、関羽はどこにいたか・・・?

 実は孔明の命令で、待ち伏せをしていたのである。

 残り300騎となった曹操軍、やっとぬかるみから出て平坦な道に入った・・・曹操がいきなり笑い出す。どうしました?と部下が聞く。ふつうに考えても笑ってるような状況ではないが・・・。
 「孔明も思ったほどではないな。ワシならここに待ち伏せをおくのだが・・・。」

 なんていってたら、関羽が飛び出す。

これはもう、絶対絶命である。さすがは孔明、ぬかりはない。

 実をいえば、関羽曹操は古い顔なじみで降伏した関羽曹操が取り立てて、武将にしたこともある。そのときの恩義を説かれ、情にほだされて、関羽曹操を見逃してしまうのである。

 ・・・このほうが自然だと思うが、いかがか。

 それでは。