自然の「法」に従う〜「諸葛孔明」を読みました。

         植村清二   中公文庫

 以前映画「レッドクリフ」を見たと書いたが、先日、一足先に試写会で「レッドクリフPART2」も見てきた。

   よかった〜〜。

「もう1人でも、80万の曹操軍と戦うぞ!」という感じがフツフツと沸いてきて、勇気をもらった。敵がいかに巨大だろうと戦うぞ!お〜〜!

 赤壁・・つまり赤い(red)崖(cliff)。赤壁の戦いは知っていたけど、レッドクリフって?と最初は思ってしまった。英語にしただけか・・・。
 
 中国に流れる河、長江に赤いガケがあるところがあって、そこの地名である。河といっても、日本にいる私達が国内でみる河よりはるかにでかい。向こう岸なんて見えない。大きい湖か海みたいで、風のある日は波だってたつそうである。ああ中国は広いな〜。日本は本当に狭い・・・。映画の宣伝で、見渡す限りの船の大軍のシーンがあるが、あのデカさである。けっこう、これだけでも感動する。また三国志は実際の歴史の話であるから、赤壁の戦いが西暦208年に行われたことも確かである。
 ちなみに、後の宋の時代に蘇軾(ソショク)という詩人がこの戦いについて赤壁賦(セキヘキフ)という詩を赤壁にて作っているのが有名だが、じつは、別の赤壁だった。長江には土が赤っぽい崖が多いようである。


 この三国志の主人公である劉備玄徳。

 映画の劉備も、あれはあれでよかったが、やっぱり、チョウ・ユンファ劉備が見たかった・・・断られたということで残念!

 義兄弟の契りを結んだ関羽。この人は中国ですごい人気。長いおひげから、長髭公と呼ばれて、北京ではそこらへんに廟があるそうである。かっこいい。

 ちょっとコミカルな張飛も欠かせない。この人も義兄弟。映画を見て、まさに、こういうイメージだった気がする。

 原作を読んだ時から虫が好きなのは、超雲。この人は本当にいい人!誠実さを感じる。

 そして、金城武、おいしい役である。日本では一番人気の諸葛孔明。若き天才軍師の面影を感じた。この人の戦略が赤壁の戦いを勝利に導いたといっても過言ではない。三国志は、実はこの人の戦略がメインなのではないかと思う。孔明の戦略が、気持ちのいいぐらい、どストライクにあたったのがこの赤壁の戦いである。

今回は金城武が演じた諸葛孔明に関する本である。

★★★

 三国志を読んだ時も、映画を見た時も、「軍事戦略家」というイメージが強い諸葛亮孔明であるが(亮は字:あざな)、この本では思想的背景を明らかにして、政治家としての孔明をかなり評価しているようだ。

 孔明は、思想的には法家の色彩が強いそうである。・・・聞いたことがあるけど正直言ってよくわからないっ。秦の始皇帝が、これによったとか。厳罰主義だから人民は嫌がりそう・・・と思うがそうでもない。それは法の執行が公正だったからである。

 赤壁の戦いよりかなり後のことであるが、蜀の国の宰相になった孔明は、魏との戦争に際して、馬謖(ばしょく)という人を将軍に抜擢した。ところが、馬謖は机上の戦略ではすぐれていたものの、実践向きではなく、敗戦してしまったのである。孔明は、馬謖を好きだったが、その責任を負わせて、斬首刑にした。
 「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という言葉は、君主は公平であるべきだという理念を示し、今に残っている。つまり、信賞必罰は公正に、えこひいきがあってはいけない。権限が誰にあるのかを明確にして、一度、言ったことは「法」になるのだから、感情と関係なく守らなくてはいけないということである。現代の法治主義につながる気がする。一旦治める側に立ったら、客観的な基準でできるだけ公平にするという事だと思う。映画の中でも、10万本の矢を調達するって、ライバルの周瑜に言った後、策略で矢を大量に取ってきたんだけど、もしかしたら10万本には少し足りないかも・・・って時に足りなかったら孔明が最初に言ったとおりに首を差し出すというシーンがあった。あ、矢の到着が遅れただけだったので大丈夫だったけど。これって、一旦約束したら、それは絶対守るという意味もあると思う。日本の治める側の政治家の皆さんは、どうなんでしょう。約束やマニフェストちゃんと守ってるかな?

 これに対して、魏の曹操が、(映画では)水軍の要である二人の将軍を裏切られたと思い、カッとなって首を斬ったことが、敗因の一つであったことが思い出される。これは、呉の軍事戦略家、周瑜の策略だったのだが、曹操が降伏を勧めるため送り込んだ友達を逆に利用して、その二人の将軍が裏切り者だと思わせたのである。水軍・・・つまり船乗りとしての経験豊富な二人は、赤壁の戦いを勝利に導くある知識を有していた。それがあれば、曹操は勝てたハズなのだ。しかし(裏切られた・・・許せん!)という感情に走り、敵の策略にまんまとひっかかってしまったのだ。この性格の弱さが敗因といえよう。
 なお、この本で見ると、曹操、けっこういい奴である。三国志では、薫卓(とうたく)ほどではないが、80%ぐらい悪者という印象が虫にはある。しかし、読書が好きだし(←これポイント高い)、ユーモアもわかるし、魏の国もきちんと治めている。(ちなみに曹操の人物評は、治世の能臣、乱世の姦雄である)逆に、劉備はポイント下がった。けっこう派手好きって・・・。友達選びはいいけど。

 ところで、数において勝る魏の曹操軍を、後に蜀を建国する劉備軍と呉の孫権軍の連合軍が打ち破ったこの戦いであるが、ある情報が勝敗の鍵を握っていた。

 孔明が持っていて、水軍の二人ももっていたであろうある情報・・・。

 それは風向きである。

 孔明は気象学に通じており、雲の形や経験から、風向きを予測できたのである。このように、自然がどのようにうごくのか、いわば、自然の「法」を学ぶことが戦略のカギである。ま、周瑜も、人の心理という自然の法を利用したといえるが。

 風向きが何故大事か?それはもちろん、火攻めのためである。数で勝る敵を攻略するには自然の力を借りなければならない。ところが、最初のうちは、曹操が軍陣を構えたところから、呉の軍陣への風が吹いていた。これでは、火をつけると逆に味方が滅ぼされてしまう。ところが孔明の知識(死んだ二人も持っていたであろう知識)によれば、丑の刻に風向きが変わるという。

 この丑の刻までの待っている時間がけっこう長い。でも、弓矢をぎりぎりまで引くのに似て、その後の戦闘シーン(すさまじい)を引き立ててると思う。こういう辛抱強いところが、なんか中国人らしい・・大人だなと思う。
 
 丑の刻の後の攻撃のすさまじかったこと・・・!

 気象学・物理学・心理学・・・今は細分化されているが、こういった科学、つまり自然の「法」を学び、利用することが戦略といえるかもしれない。この時代の中国の武将に限らず、人は誰でも生き残るための戦略は必要である。

 それでは。この映画の影響か、次回も三国志関連で。