刑事とドロボウの走馬灯〜「魔術」を読みました

           エド・マクベイン  井上一夫 訳    ハヤカワ文庫

 「トリック」というTVドラマがあったのを覚えておられるだろうか。
 虫は全部ではないが、何回か見た。(けっこう面白かった)ま、これは関係ないが・・・。

 そのドラマとこの本の共通項は「trick」である。この本の題名は「魔術」になっているが、昔は、翻訳は日本語をあてはめようと頑張るのが普通だったので、この題名になったのだと思う。
 今なら、おそらく「トリック」(カタカナ)という題名だろう。そういう題名が普通になっている現在、ある意味それって、翻訳の努力を放棄してるんじゃないかな?と虫には思えるのだが・・・。

 しかしながら、これは、英語の「trick」のいくつかある意味を使い、ダジャレ効果(?)を出そうとしているのであるから、やっぱり、トリックそのままじゃないと、かなり味が変わってしまうように思う。

 日本語で言うトリックは「策略」とか「企み」の意味である。
 この警察小説で同時進行する犯罪は(ちなみにtrickには犯罪の意味もある)、何者かの企みによるものである。

 87分署シリーズ。
 フロスト警部シリーズの元祖(こっちの方が古い)といえるかも。あっちはイギリスでこっちはアメリカだけど。
 
では、本題に戻ろう。

 例えば、card trick は、トランプの手品だから、手品という意味もある。
 手品師セバスティアーニのバラバラ殺人事件がメインと見て邦題は魔術なのかな?途中からなんとなく犯人がわかる。しかし、足とか身体とか、コマ切れの死体が少しずつ出てくる(しかもゴミ箱から)というのは、控えめに言ってもグロテスク。しかも奥さん、○ニスのほくろで身元を確認するし。そんなところにほくろが・・・。助手も行方不明である。この話で虫は、これって絶対バラバラにする理由があるぞ・・・と思ってたのでけっこう早いうちに犯人が分かったと思う。

 「Trick or treat !」
 これは、有名なハロウィーンの言葉。普通よりもっと直訳すると、「trick、つまりいたずらとtreat、つまりもてなし・・ここではキャンディとかガムなどのお菓子をもらうこと。のどちらがいいか?」と子供達が聞いて回る。お化けや妖精やらのコスプレをして・・・。普通は、「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」と訳される。この小説の舞台はハロウィーンである。お菓子をねだって歩く子供達にまじって、扮装した小人が、3.4人、酒屋を強盗してまわる。最初は、子どもの犯行かと思われたが、サーカスに勤めていた被害者がいて、小人だとわかる。エド・マクの別の短編にも小人が出てきた。好きなのかな?しかしこの強盗、金よこせなどと言わずにすぐに発砲し、きわめて残忍。警備中の刑事まで撃たれて重傷である。

 最後に、売春婦の客もtrickと言うそうである。
 売春婦ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、そのおとり捜査のため売春婦に扮する女性刑事。そういえば、マイアミ・ヴァイスというTVシリーズが昔あり、最近再度映画化されている。たしかコリン・ファレルが出てた・・・、これはおとり捜査専門の刑事の話である。この映画にもあるとおり、おとりになる方は本当に恐い。しかも、買春のようなチンケな犯罪ではなくて、連続殺人犯である。彼女は以前のおとり捜査で負傷しており、身体の傷はともかく、レイプされかけた心の傷は癒えていない。しかし、迷った末に捜査を引き受ける。落馬したら、すぐに馬に乗ったほうがいいということか。しかし・・偉い!
 サポートは3人ほどついていたのだが、犯人が現れた後、その女性刑事のボーイフレンドの刑事が、いいとこ見せようとして、「警察だ!」なんて言うものだから、犯人と女性刑事に逃げられ、サポートできなくなってしまった。
・・・彼女はたった一人で連続殺人犯人と向き合わなくてはならない。キッツー。

 こういった事件が走馬灯のように駆け回るハロウィーンの夜。それぞれの思惑が、不思議な文様を生み出す。
 
 ハードボイルドはあまり読まない虫だけど、表現がしゃれてるなと思う。ちょっとエロかったりグロかったりはするけど。もうちょっと笑いがほしいな・・・。

 それでは。