汚い商売、きれいな心〜「転倒」を読みました。

              D・フランシス   菊池光 訳  ハヤカワ ポケミス


 そりゃ商売で利ざやをかせぐためなら、少々汚いことだってするかもしれない。


 しかし、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の跋扈(ばっこ)する商売世界でも、このサラブレッドの仲買業者ぐらい汚いのも珍しいのではないか、というのが率直な感想である。サラブレッドは高い買い物である。一頭の値段が高く、しかも現役の競走馬でいることができる期間も限られている。もし、レースで勝てば賞金や種付け料などでかなりの金額になる。勝つ馬は限られているが・・・、しかし馬券を買う以上に大きな賭けであることは間違いない。
 だから、サラブレッドを買う人たちは賭け屋以上にサラブレッドの仲買業者を信頼している。(日本では、馬券を売るのはお上であるが、イギリスでは私設の賭け屋である)だからこそ大金を託し、夢を買うのである。

 ああそれなのに、なんなんでしょうこの人たち(主人公を除く)。
サラブレッドの生産牧場に多額のリベートを要求する。(もちろん、そのリベートが上乗せされた金額で馬を買うのは何も知らない、その馬を買う人たちである)リベートを支払わない場合、買い手がつかないように裏工作をする。それを買った仲買業者(主人公)を村八分にする。あくどい!

 主人公は元騎手。

 この世界でまっとうに、細々と生きながらえているのが、主人公ジョウナ・ディアラムである。自営だが商売はかつかつである。適正価格でまっとうに商売をしているからである。

 ある日、大金持ちの女性に婚約者の息子へのプレゼントにするためのサラブレッドの購入を頼まれた。ところが、せっかく競り落とした馬が、馬匹車ごと奪い去られた。といっての、その馬の代金とプラスアルファのお金を残して・・・・。どうしてこんなことになったのか知りたがる依頼主に、ジョアナは、もし調査をおしたいのならとシッド・ハレーの探偵事務所をすすめる!
 かなりフランシスを読んでいる人ならご存じであろう。フランシスの初期の何作品かの主人公である。
 ホントに依頼したら、シッドが乗り出してきて主人公が代わってしまうのでは?といらぬ心配をしてしまった。依頼しなかったけど。(ま、損してないからね。)

 他にも、預かった人の馬が逃がされたり、駐車場でボコボコにされたり、家のとなりにある厩舎を燃やされたりとさんざんな目にあう。

 とはいえやられっぱなしではない。後半はかなりやり返す。

 また、私生活では航空管制官の女性と出会う。(馬が逃げ出したのがご縁である。)

 アルコール依存症の兄がいる。
 むやみに禁止すると犯罪に走りかねないので、適当にお金をやったりしている。この兄、弟にたよりっぱなしである。同情する彼女に「兄に立ち直ろうとする気さえあれば、立ち直れると信じている。今のところその気がないのが問題である」という。

 最後に、仲買業者を結託させ、陰で操っていた黒幕と対決する。このときに、兄、クリスピンに助けてもらう・・が、その黒幕に兄が撃たれて死んでしまう。


 その後、AA(アルコール依存症治療グループ)の人から電話がある。兄、クリスピンが電話をしたのだ。

やっと立ち直る気になったのに・・・。