あらためて紹介します。キンジー・ミルホーン!〜「裁きのJ」を読みました。

            スー・グラフトン   嵯峨静江=訳  ハヤカワ・ミステリ文庫

 キンジー・ミルホーンシリーズ。

 このシリーズは「アリバイのA」からはじまるから、A、B、C・・・なんと10冊目だ!もうそんなに?もちろん全部読んでいてこれも再読。どれも面白い。安心して読めるシリーズのひとつである。

 謎めいたちょっとした導入部の後に

 私の名はキンジー・ミルホーン。カリフォルニア州のライセンスを持った私立探偵で、ロサンゼルスから九五マイル北にある町、サンタ・テレサを根拠地にして仕事をしている。

と、自己紹介をする書き出しで始まり・・・

 ・・・どうか理解してほしい・・・わたしには答えがわからない。わたしはただ問題を提起しているだけだ。わたし自身の人生についてもまだ、答えのでない疑問ばかりをかかえている。
                             以上、報告します
                              キンジー・ミルホーン

 で終わる彼女の文章は、今やすっかりおなじみである。


 今回は、以前勤めていた生命保険会社の依頼で、死んだと思われていたねずみ講の主犯の男が生きていたのではないかという調査である。ま、勤めていたというより、オフィスを置いてもらっていたというか。

 このキンジー・ミルホーンシリーズは、よく、先日短編集で紹介したサラ・パレツキーの、V・I・ウォーショースキーシリーズと比較される。

 後ろの解説を書いた郷原さんによると、ヴィクは肩ひじをはってフェミニズムを主張するが、キンジーは自然体で男性ファンが多いという。
 この郷原さん、ミステリ好きと聞いてるし、雑誌EQ(エラリークィーンズミステリマガジンの日本版)でもよく文章を拝見するどちらかといえば、ハードボイルドを好む方である。

 だが、正直ヴィクがそんな主張していたのだろうか。どうも読んだ覚えがないが、読んでも気付かなかったのだろう。虫は両方とも好きである。政治的な正しさとかいちいち気にしていられない。要は読んで楽しければいいのだ。
 たかが小説だし。

 もっとも、この二人は等身大の女性が、男の牙城だったハードボイルド系の私立探偵に参入したはじめのころだからいろいろ言われたに違いない。ミス・マープルのような安楽椅子探偵ではない女性の探偵といえば、P・D・ジェイムズのコーデリア・グレイぐらいしかいなかった。(しかも、題名が「女には向かない職業」だし。)今ではめずらしくともなんともない。そういえば、昨日も女性探偵ものだったし。(ジュリのほうが最近の世代であるので、なんというか「女でもできることを証明しなくては」といった気負いがない)
 女というのは珍しくもないが、最近はプラスアルファで、女で酔っ払い(男で酔っ払いはいた)とか、女でレズビアンとか(もちろんゲイはいた)になると、正直ついていけない・・・。(と読みながら思った)虫も差別主義者なのであろう。とくに酔っ払いはカンベンしてほしい。ホームズやポアロに回帰したくなってしまう・・・。レズビアンというのは、知識として存在することはわかるが、どうも、想像力が追いつかない。少なくとも読んだのはそうだった。

 もっとも、ヴィクに比べるとキンジーの方が、ハードボイルド色が強いとは思う。行動が多いというか。こっそり忍び込んだり手紙をパクッてきたり・・ってワルじゃの〜。

 最初に、死んだと思われていた男を確認するために、メキシコに飛び、その男のホテルの部屋に侵入するあたりなんかスリル満点である。この時の男、ウェンデル・ジャフィと連れの女(なお本妻がいる)レナータ・ハフの様子は忘れがたい。

 なおこの事件で、両親が死んでジンおばさんに育てられたというキンジーの別の親戚が発見される。なんといちどきにいとこが3人ぐらい・・・。両親の事故死や、(両親が)結婚した訳など、いろいろな情報が、自分自身のアイデンティティーの変化につながる。これが「自分の人生で答えがでない質問」である。