宇宙の発見〜「マンガ ホーキング入門 天才物理学者の人生とその宇宙論」を読みました。
J・P・マッケボイ 文 オスカー・サラーティ 絵 杉山直 訳 ブルーバックス
1962年、ケンブリッジの大学院に進学が決まっていたホーキングは、靴紐がうまく結べないことに気づいた。おわかりの通り、ALSにかかってしまったのだ。余命2年と宣告された。
ホーキングを襲ったもう一つの不運は、希望していたホイル博士の指導が受けられなくなったことだ。この博士の指導を仰ぐためにケンブリッジを選んだのだからがっかりであった。
しかし、本書のためにインタビューを受けたホーキング博士本人は、ALSにかかったことを除けば幸運だったとしている。ALSは、専攻する理論物理学に唯一必要な頭脳には全く影響がない。この時、後に結婚するジェーン・ワイルドという女性に会う。さらに、ホイル博士の代わりに割り当てられたデニス・シャーマのほうがよい先生であった。
このホイル博士の弟子のナリカーの計算をホーキングが手伝ったことがある。そして、ホイル博士はその計算を元に王立協会で発表した。最後に、「何か質問はありますか。」と尋ねると、ホーキングは杖につかまって立ち上がった。
「あなたが今お話になった量は発散しています。」
会場はどよめいた。発散しているということは、ホイルの結論がほとんど間違っているということだ。
「もちろん、発散などしない。」
「いえ、するのです!」
「なぜ、わかるんだ。」
「それは私が実際に計算してみたからです。」
会場は当惑した笑いにつつまれて、ホイルは激怒した。すぐに休憩にはいったが、結局、ホーキングが正しく、ホイル博士の提唱する定常宇宙論は次第に支持を失っていった。研究室にはいることを拒否された無名の大学院生が、著名な宇宙論研究者を査読(内容チェック)したのであった。
ホーキングはビッグバン理論で有名になるが、この「ビッグバン」は実は、ホイル博士が名づけた形であった。定常宇宙モデルに対抗するモデルをあざけって呼んだのだ。
一瞬にして起こる宇宙の創造なんて、バースデーケーキからパーティーガールが飛び出してくるようなもので、「ビッグバン」と呼ぶのがふさわしい、馬鹿げたものだ・・・。
ホイル博士の死亡記事は皮肉なことに、「ビッグバンの名付け親」だった。この人に断られて、ホーキングはラッキーだった。
それにしても、宇宙論や物理学の研究で重要なのは、常に疑うことである。自分の正しさを擁護したい気持ちをおさえて、真実の前で謙虚になること、なかなかできることではない。アインシュタインでさえ、彼の方程式の応用を受け入れることがなかなかできなかったのである。もちろん、それが彼の偉大性を損ねるわけではない。しかし、人は誰でも間違える可能性があるのだ。
覚えておくことがいっぱいだ。なにしろ、学校でさぼってたから。今回はこれだけ覚えよう。
熱力学の第二原則。
=系のエントロピー(乱雑さ)は、(系が孤立しているか平衡状態に達していれば)決して減少することなく、同じ値にとどまるか増加するしかありえない。
これは、例えば、熱いカップと冷たいグラスを隣り合わせに置いたとする。
どうなるか?
冷たいグラスは、温まる。
これは熱が移動したから。
そして、冷たいグラスのエントロピー(乱雑さ)は増大する。
しかし、冷たいグラスからは熱いカップに熱は移動しない。
なぜなら熱いカップのほうが、エントロピー(乱雑さ)がもともと大きいから。
氷の結晶を思い起こすと、氷の分子配列が限られている(ゆえに美しい)ことがわかる。しかし、熱いカップのなかでは、熱い液体が水蒸気に変わり、様々な分子配列の可能性がある。これが乱雑ということだ。
ゆえに、冷たいガラスから熱いカップには熱が移動しないのだ。
ハンプティダンプティの歌にある、壊れた卵が元に戻らない理由もこれだ。エントロピー(乱雑さ)が増してしまったから。王様の全ての馬、全ての兵隊を総動員しても、ハンプティダンプティはもう一度、壁に座ることができない。