怠けることも大切だ!・・・「働かない〜『怠け者』と呼ばれた人たち」を読みました。

                 トム・ルッツ著

 最近のテレビ番組やニュース等で目立つのが、「ニート」とか「ワーキング・プア」とかをいかに更生させるかという話題である。フリーターや派遣社員などの非「正社員」をなんとかしようという、いささか、十字軍めいた社会運動の存在を感じるのは、虫だけではないはずだ。ナンか、偽善くさいと思う。

 しかし、この本は、ズバリ、『怠け者』文化というのは、昔からある文化であり、近現代の資本主義国が称揚している勤労倫理、つまり、働きに働いて経済的に独立し、財をなす理想像があるとすれば、その双子の弟に他ならないとしている。

 「怠ける」ことは、勤労倫理を裏から語ることに他ならない。アメリカは、プロテスタントという、キリスト教のなかでも度量の狭い文化が勤労倫理をおしすすめてきた。(日本は、儒教を国の都合のいいように解釈して勤労倫理を作り上げ、戦後はアメリカさんのも輸入している)

 虫的には一番ショックを覚えたのは、ベンジャミン・フランクリンである。

 実を言えば、岩波文庫のフランクリン自伝の付録についている、「貧しいリチャードの暦」(最近は日本人による焼き直しっぽい本もある)。これを読んで、警句をノートに写したり、12の徳を順繰りにマスターしようとした。もちろん、できなかったが・・・。これがビジネス書やハウツー本を読み始めるきっかけになったと思う。いや〜。真剣でした。ま、若かったね(小学生だった)。

 ところが!、この本によれば、実際のフランクリン自身は、これを文字通り信じていたわけではなかったそうである。そういえば、この本の構成自体、リチャードが、コートを買う時にエイブラハム老人とかいう人から聞くという構成であり、そういわれてみると、なんか怪しげである。(でも、今まで素直に信じてたね)

 フランクリンの随行員をつとめたジョン・アダムズによれば、「怠惰で道楽におぼれすぎていた。」

 ・・・・ダマされた!このくそじじぃめ!!

 フランクリンは凧で、雷が電気であることを発見したことで有名だが、そういうヒラメキは、この「怠け」がもたらしたのかもしれない。

 フランクリンと同じ時代の人にサミュエル・ジョンソンという人がいる。イギリス人だが、この人はフランクリンと対照的に「怠ける」文化を褒め称えた。自称「怠け者(アイドラー)」であり、アイドラーという雑誌まで創刊している。

 ところが、この人、称しているほど、怠け者ではない。なにしろ、辞書を編纂したのである。何千という項目をたった一人で書いたことを思えば到底怠けてなんかいられないはずである。他にも何百という詩や小説なんかも書いている。

 この二人は本当に対照的である。

 「怠け者」文化は、多彩である。というか、9時から5時までの仕事*1というのは社会からの疎外を生むから、文化を担っているのは、主として怠け者である。

 「働かない」というのも一つの選択肢であり、「過労死」するぐらいなら、生活に困らなければ怠けるほうがまだ安全である。

 現在働いていない(か、マックジョブとこの本で呼ばれている一時しのぎの仕事をしている)皆さん、「ちゃんと就職しなさい」とかうるさく言う家族に読ませるのには最高の一冊である。

 作者の息子がカウチに横たわり一日中、TV鑑賞に忙しかったことがきっかけでこの本ができた。
 この息子、後にテレビ業界に入った。そう、彼は働いていたのである。


 

*1:これは現代の典型的な8時間労働を前提にしての話、アメリカでごく初期のころは自由に職場を離れて2時間くらいの飲酒休憩とかとってたらしい。