サイモン・ブレットの「連続殺人ドラマ」を読みました。

                     堀内静子訳    ハヤカワ・ミステリ


それでは!ミセス・パージェターと並ぶ、サイモン・ブレットの別のシリーズのキャラクターをご紹介します!

ミスター・チャールズ・パリス!

チャールズ・パリスは、売れない俳優です。

今回は幸運にもTVシリーズで、3ヶ月もの脇役の仕事をつかむことができましたが、そんなことはめったにありません。今回は、たっぷりとTVドラマのTV業界の内幕を味わうことができます。サイモン・ブレットの本には、イギリス社会に対する風刺を感じますが、ミセス・パージェターシリーズがどちらかといえば、イギリス社会全般にたいするもの、パリスシリーズでは、マスコミや業界に対するものが多い気がします。

 イギリスのTV業界も、日本とそんなに変わるものではなさそうです。アイドルとか「高名な」スター(しかし大根役者)の他は、どうでもいいエキストラ(残念ながら、チャールズ・パリスもそう)。「枕営業」で役をつかむ女優さんとか・・・。

 ディレクターや、プロデューサー、脚本家の役割分担とかスターもまじえての権力争いとか、内幕物として読んでも面白そうです。サイモン・ブレットもプロデューサーをしていたことがあるので、その経験が生かされているようです。

 ありついたのは、TVドラマ「スタニスラス・ブレイド」シリーズ。W・T・ウィンターグリーンという女流作家が原作を書いており、チャールズ・パリスは、間抜けな警察官(有能な私立探偵スタニスラス・ブレイドの引き立て役)を演じます。
 ところが、スタニスラス・ブレイドの娘役だったシッピー・ストークスが、死体で発見されます・・・。パリスは、なぜか、その解決を目指し(別に誰からも頼まれていないんだけどね)、引き続いて起こる、殺人やら何やらも最終的には解決します。

 考えてみると、俳優としてより、探偵としてのほうが有能なのでは・・・?


チャールズ・パリスは、飲みすぎです。

もちろん、アルコールを。

 「もう飲み始めていいころ」をずっとまっていますし、テレビ局でも、最寄りのバーへの最短距離を常にチェックしています。そこらへんをこころえている悪友ウィル・バートンはロケ先のホテルをこう話します。

「きみが必要とする設備はそろっている・・・・バー・・・・レストラン・・・・ほかのバー・・・・サウナ・・・またべつのバー。」

チャールズ・パリスは、既婚です。

 より正確にいえば、結婚したことがあり、まだ離婚していません。(手続きはしていません)奥さんのフランシスとは、ずっと別居状態です。たまーに電話する程度(今回は3ヶ月ぶりに)で、いつも、「夫婦生活」を復活させようとするのですが、なかなかうまくいきません。フランシスは、学校の校長先生としてフルタイムで働いています・・・半ば、失業中のチャールズと異なり。
 
 今回も「結婚していない」状態から、脱却しようとするチャールズに、その手の試みには臆病なフランシスは、二つ、もっともな条件をつけます。
 ひとつは、シラフの状態で電話してくること。もうひとつは、向こう1年間、ほかの女性に手を出さないこと。
 ひとつめは何とかクリアしますが、もうひとつは、アウトです。「ブルー・ナン」というあだ名をつけられた女優さんと、(残念ながら、人生最大の勝利ではなかった・・あー、役にたたなかったようですが)条件を出されてから、たった48時間で・・・。
 ブルー・ナンというのは直訳すると「青い尼僧」ですが、ブルー・ナンというワインがあり、飲みやすくて、どんな食事にも合うというところから、あまり男性の選り好みをしないという意味だそうです。

 このフランシスは当然ながら、毎回このシリーズに顔を出します。
 ほかには、俳優に仕事を見つけるのが仕事のエージェント・モーリス・スケラーンも常連です。この人は、仕事を見つけるという意味では、全く無能なのですが、人の噂を集める点ではすごく有能です。探偵仕事は、この人に助けられているといっていいでしょう。
 脚本家のウィル・バートンもよく出てきますね。チャールズとの会話のしんらつさは、じつにたいしたものです。シッピー・ストークスがいかに大根さかげん(女優と呼ぶのは誇張もいいところ)や、スタニスラス・ブレイドを演じるラッセル・ベントリー(どんな役柄もラッセル・ベントリー風に演じる)についての会話は楽しいですね。