土屋賢二の「汝自らを笑え」を読みました。

                     文春文庫


 これは、御茶ノ水女子大学で哲学を教えるツチヤ教授のユーモア・エッセイ集です。近頃ではユーモアと名のつくものでも、笑えるかどうかは確実ではありません・・・が、ツチヤせんせーのものは、信頼に足ります。

 「汝(なんじ)自らを笑え」というのは、タイトルとして、非常に適切ではないかと思います。できれば、土屋氏の書かれたエッセイ集のほとんどをこの題に改名すべきかもしれません。それというのも、ほとんどのエッセイの内容が、自虐ネタだからです。(この本のみならず、いままで読んだことのあるツチヤせんせーの本の主題はつきつめればコレです)「妻や大学の助手や学生から、いかに虐待されているか。論文もうまいこと書けないし、エッセイの内容もないし、思考力も記憶力もお金もない・・。」といった内容しか思い出せません・・・。平たくいえば、グチですね。
 
 それが面白いのは、様々な切り口でこの目新しい情報(?)を提供してくれており、何事も疑う、哲学者ってぇのは違うなあと思わせてくれるからに他なりません。そういえば、ソクラテスも悪妻がいたことで有名でしたね。この方は結婚を勧めていました。「良妻なら幸せになれるし、悪妻なら哲学者になれる」という理由でした。


 「ここ500万年をふりかえって」という題のエッセイで、「あなたにとって二十世紀最大の出来事はなんでしたか」というアンケートに答えた経験を紹介しています。

 ツチヤ氏は、この質問に対して、正直に答えています。

 『わたしにとって二十世紀最大の出来事は、わたしが生まれたことだ。第二に重要だったのは、今まで死ななかったことだ。』

 ですよね〜、おそらく誰にとっても。こういうしょうもないアンケートを考えたのはどこのどいつか知りませんが、歴史家気取りのマスコミ関係者でしょうな。


 「男の理想と現実」というエッセイで、男女で、理想の持ち方が違うというのは、うがってるなと思いました。
 つまり、男は、現実とかけ離れた理想を抱きます。典型的なのはハードボイルドで、一匹狼の孤独な主人公で、経歴などもはっきりしません。また、お金も社会保障も健康保険証もなく、どこかにふらっと出て行く・・・。きれいな女性に追いすがられても、振り切って立ち去ります。
 という理想を抱いている男でも、実際の努力は全くその反対方向にします。仲間や同僚に気を使い、一人を嫌がり、お金をできるだけ儲けようとしますし、社会保障も健康保険証も必要不可欠ですし、生活を安定させてマイホームを目指したりします。振り切るどころか、女性にモテるために様々な研究をしたりします。
 これに対して、女は、美しくなり、金持ちでかっこいい男性と結ばれる理想を抱き、実際の努力もその方向にします。
 女の方が単純ですね。おっしゃるとおり。

 
 「私が愛した名探偵」というエッセイの中で、虫も大好きなドナルド・ラムを挙げていたのに親近感を持ちました。もしお会いしたら、ミステリの話で盛り上がれそうです。A・A・フェアのクール&ラムシリーズに出てくる私立探偵です。この人もホントにモテるんですよね。

 この本は本の中で、立ち読みではなく、購入をすすめるという珍しい構成です。それほど印税がほしいんでしょうか。(まえがき)もちろん、虫も買ってはいませんよ。図書館で借りただけです。