「フロスト気質(かたぎ) 下」を読みました。

         R・D・ウィングフィールド  /  芹沢 恵 訳 創元推理文庫

 上の感想で言い忘れたが、今回も様々な事件が同時並行で起きる。

  • ハロウィーンで家を廻っていたボビー・カービイ少年(7歳)が誘拐され、同じ年頃の別の少年の死体が発見される。これもハロウィーンの扮装で・・・。(危ないところで少年の母親に死を告げるところであった。)

  →この事件は最後まで難航。ふてぶてしい犯人(フロストとは対照的な、几帳面なヤツ)との攻防は見所である。少年を捜索する警官たちの努力は、すごいとしかいいようがない。どしゃぶりの雨のなか、うっそうとした森や河川敷や川の中(ハロウィーンは10月末で、イギリスは日本より寒い。冷たさが骨までしみたはずである)を捜し続ける。・・・それを見て、マレット署長の心配するのは・・・、多額の残業代である。官僚主義の権化だね。
 河原をライトアップして捜していると、警察無線を傍受している記者が、フロストに寄ってきた。たまたま通りがかったなんて、白々しいこと言って。
 

 サンディはにやりと笑った。「まさか、ジャック、とんでもない。たまたま車で通りがかったら、このあたりだけ、やたら明るく照らされているのが眼に入ったもんでね。」
「ほう、そうかい。」フロストは鼻を鳴らした。「どうせ、そういう見えすいた言い訳をひり出すと思ってた。ああ、ご賢察の通りだよ。おれたちは例の少年を捜している。」
「特にこの場所を選んだ理由は?」
「いや、別にないよ。たまたまこのあたりだけ、やたら明るく照らされているのが眼に入ったもんだから、ちょいとのぞいておこうかと思っただけさ。」

 川辺の横穴からぐったりとした少年を発見するところは、ジーンとする。

  • 誘拐された娘が、全裸で、車に助けを求めた。

  →フロストは、インチキくさい・・・とは思っていた(父親も借金まみれのため)。しかしこの読みは半分だけ正しかった。最後に起こった悲劇になんとなくやりきれなさを感じる。犯罪者は、ほとんどにおいて愚か者である。

  • 石炭貯蔵庫から発見されたぐちゃぐちゃ死体は、こそ泥レミーのものだった。死後、指が切断されている。ダギーと組んで、年金暮らしのお年寄りの家に押し込む仕事をしていたのである。

 →これの犯人も、せつない。だいたい、正当防衛だし。ただ、個人的な秘密をかかえているため警察に言うわけにはいかなかったのである。社会的偏見がなくならないと、正義がなされるのは難しい。

  • マーク・グローヴァーとナンシー・グローヴァーには、3人の子供がいた。息子が2人に娘が1人。一番上が、3歳で一番下(それが娘)が生後十一ヶ月。ある日、マークが仕事から帰ると、3人の子供は、死体になっており、妻は、行方不明だった。

 →これはツラい。生まれてまもない子供が殺されるのは本当にやりきれないし、家庭内の悲劇としかいいようがない。この奥さんは、家に子供たちと閉じ込められて、おかしくなっちゃったのね。主婦の社会的孤立というのは、ほっておかれているけど、重要な社会問題だと思う。

 これ全部、不眠不休の努力で解決したのは、フロスト警部である。いきあたりばったりではあるが。なのに、「書類仕事は苦手で・・・」とか言って、手柄を全部他の刑事にあげているのである。出世しないわけだ。

 そうそう、事件の参考人(何か知ってるけど、言わない)の吐かせ方がうまい!
 「まぁ、個人的には、お前は犯人でないとは思うよ・・・あんたそんな度胸ないもの。でも、犯人をあげるのが俺らの仕事でさ〜、あげないとウルサイんだよね。お前は前科者だしちょうどいいわけよ。有罪にできたら、オレの覚えもよくなるし、そうなったら、お前が実際にやってないなんて誰が気にする?」
  →知ってること洗いざらい吐きましたとも!

 敵役のアレン警部は、今回は顔をあまり出さず、別の警察署から、ジム・キャシディ警部代行という人物が来る。以前、娘のひき逃げ事件をフロストがやり、それで犯人が捕まらなかったと恨んでる、ワケありのお方である。
 この件は、別の部下が、その娘がヤク中の売春婦だったことを隠すために内々にしたとぶっちゃける。ヤクでモウロウとして急に飛び出したので相手の車がよけようがなかったのである。
 野心満々の若い刑事が毎回出てくるが、今回は女性で、リズ・モード部長刑事であった。(お嬢ちゃん)はじめは野心満々の嫌味な女という感じであったが、(女性のため)事務員代わりにされたり、例の全裸の女の子の誘拐事件の結末を見て、だんだんいい感じに成長してくる。(フロストから、1件手柄をもらう)

 ちなみに、このリズ、最後の方でガウン姿をフロストに披露している。

「お前さん、ロイヤル・ソヴリンって品種の苺を見た事あるかい?そのロイヤル・ソヴリンの小粒だけどよく熟れたやつに朝露が降りて、そこに昇りかけの朝日が差し込んでくるんだ。」自分の言い出したとりとめのない空想に、フロスト自身が酔っているようだった。
「いや、見た事はないけど、想像はつきます」バートン(←刑事)は身悶えしながら言った。

 何を隠そう、リズ・モード部長刑事のオッパイの話である。