ふるさとに帰るネロ・ウルフ〜 「黒い山」を読みました。

            レックス・スタウト    宇野輝夫 訳        ハヤカワ・ミステリ


 出た〜〜〜!ふっか〜〜〜つ!!未読のネロ・ウルフもの!

 しかも、巨デブのネロ・ウルフ、運動するとか言って、ダーツを買ったのに、矢が落ちたのを拾ってもらうのを待っていたあの、ネロ・ウルフが・・・(もちろん、なんでも係のアーチーはひろってやらない。それぐらいはしないと運動にならねーだろ!という趣旨である。)

 山に登る・・・?!!!

 え〜〜!マジすか。

 だって、アパートを一歩も出ないんだったハズ!!だよね。その代わりに、助手のアーチー・グッドウィン手足や目や耳になるのだったはず。

これは読まなくては。


さてさて、黒い山とは、ブラックマウンテンのことだが、それがある国の名前でもある。これの舞台だった時代には、ユーゴスラビアに併合されていたが、現在では独立・・・・してたような気がする。セルビアと一緒だが。

 その国の名前はモンテネグロ。この意味は「黒い山」なんだそうである。さきほどググッってみたところ、その通りだった。

 ネロ・ウルフモンテネグロ出身なのだそうである。しかも、カルラという娘がいる!・・・この作品で殺されるが。ウルフとカルラの会話をみても、さほど仲のいい親子ではなさそうである。

 この本は、いつもと趣きが違う。ネロ・ウルフの親友、マルコ・ヴクチッチが殺された。ラスターマンというレストランを経営していた彼は、祖国モンテネグロの反政府主義運動に援助をしていた。モンテネグロはこの時は、ユーゴスラヴィアの一部。冷戦時代の鉄のカーテンの向こう側、つまり社会主義の国で、そういった国には旧ソ連の実質的支配も及んでいた。マルコ・ヴクチッチが殺されたのは援助がらみで犯人は、モンテネグロに帰ったらしい。

 ネロ・ウルフは犯人を追いかけ、アーチー・グッドウィンを連れて、モンテネグロ密入国することを決意した。

 後半はモンテネグロを舞台とした冒険小説である。

 ネロ・ウルフも、歩きなれないカラダで、足のマメに悩みながら(なにしろ巨体をささえているのだ)優秀な記憶力で覚えているモンテネグロの地理と7ヶ国語(もちろん、母国語も)を駆使して活躍し、山にも登る。
 ただし、リュックは自力でしょえなくて、アーチーの助けを借りるが。

 アーチーが役に立つのは今回は、リュックをしょわせてあげるくらい。なんせ、英語しかしゃべれないからだ。ウルフにせがんで、さっきあの人なんていってたの?と教えてもらう始末。いつもと役割が逆である。

 ウルフは共産主義政権に対する嫌悪感を隠しきれない。モンテネグロの事実上の首都をポドゴリツァと呼ぶ。なお現在はこの名前である。その当時はチトーグラードユーゴスラヴィアの建国者、チトーの名をもらった名前である。もっとも、この名を言った時の地元の人の反応もヘンだと思った。「聞いたことない」って、知っているはずだと思うが。それから変わったんだから。

 アーチー・グッドウィンは、もし、この国を征服したら、この街をグッドウィングラードに変えようと思う。

 レニングラードをはじめ、コミュニストって町の名前をヘンに変えるところがヤなやつらだった。(なおレニングラードの元の名はサンクトペテルスベルグ。現在はこの名前になっている。ドストエフスキーの「罪と罰」の舞台になったところである)

 今回は、謎解きというより、デブだけど意外にタフなウルフとアーチーの珍道中を楽しめる。風俗小説といったところだ。

 ところでイギリスの空港でのアーチーは、イギリス英語とアメリカ英語の違いを見事に表現している。

 イギリス人に聞くのだ。
 「今のアナウンス何ていったの?」
 「カイロ行きの飛行機が出発するそうですよ。」
 「あーカイロっていってた気がする。ところで、これ何語?」
 「・・・英語です。」

 確かイギリス人がどこかで書いていた気がするけど、イギリス英語とアメリカ英語の差は、イギリス英語と日本語の差より大きいそうである。ま〜確かに、イギリス人と日本人って何となく似通っている気がするが。

 
 モンテネグロの山はきつい。そんな中をネロ・ウルフはさっさと上り、(生まれ育ったところなので地理に明るいということもある)ニューヨーク育ちの都会っ子、アーチーはまいってしまう。

 しかも、富士山以上の高地・・・虫も無理だそれ。

 アーチーは夜をあかすときに「いや〜毛布はいいですよ〜、寒さなんて気にしません」なんてええかっこしいを言ったため、その晩はずっと寒さを気にしてすごす。翌朝凍りついて目が覚める。そりゃ高地の夜明けの寒さは、すごいでしょ。

 最後は、ユーゴのスパイと直接対決。秘密情報部というかゲシュタポというか、ま〜そういう政府関係者と。

 二人は偽名で親子という設定で旅をしているのだが、当局にネロ・ウルフを知らないかと尋ねられる。マルコ・ヴクチッチとからんでスパイ容疑がかかっていて、抹殺を検討していると。

 アーチーが言いたい!と思ったのは、「いや〜こちとらもう何年も前からそのネロ・ウルフを始末したいと考えていたんですよ〜」
 
 ウルフのわがままに振り回されて、衝突したりしてるからね〜。他の作品でも辞表を何度も提出しているし。

 もちろん言っていないが。