お姫様の寝室で〜カエルも愛せば王子になれる」を読みました。〜その5
スティーヴン・ミッチェル(著) 安藤由紀子(訳) アーティストハウス
さて・・・・
さて、お姫様の寝室で、二人(正確には1人と一匹)はベッドの上にすわっていた。
横並びに座っていて、二人ともみじめな気持ちだった。
二人とも・・・?
「あなたはわたしのベッドの足元で寝てもいいけど、肉体関係を結ぶのはイヤ。触るのもいやなの。」とお姫様。
「気付いていました。わずかに手が嫌悪感に震えていましたから・・・。」とカエル。
「でも、愛しているし、あなたの親友になってあげるわ。さあ、望みはかなったんでしょう?幸せそうな顔をしたら?」
「幸せなはずなんですけど、今まで以上に自分を醜く感じるんです。」
「わたしにとっても、十分じゃないの。」
カエルも怒りを感じた。
「あなたはまだ私にべつの誰かになってほしいと考えているんだ!」激しい口調で言った。
「そんなのはフェアじゃない!あなたが私の体を気味悪がっているのはわかっていても、私にはどうにもできないんだ。もしもっと美しいものに姿を変えることができるならすすんでそうしますよ!私を愛しているなんて、どうしてそういえるんですか。本当は別の誰かを愛しているとしたら、その愛はどういう愛なんですか?私は王子なんかじゃない。なぜあなたはありのままの私を愛することができないんですか?」
姫君はしばらく黙っていたが、やがて驚くほどの優しさをこめて言った。「私はありのままのあなたを愛しているわ。ありのままのあなたをステキだと思っているの。」
森の泉で会った時は無意識に芽生えた愛情だったが、カエルの思いやりの深さや、王様と王妃様に立派に対応した様子に、いつのまにか、本当の愛情が育っていた。
しかし、本当の愛を得るためには、カエルは本当の自分自身にならなくてはいけない。それしかないことをお姫様はわかっていた。
・・・この二人(正確に言えば1人と一匹)、実をいうと、とてもよく似ている。カエルは、お姫様への愛情については頑固であり、黄金色の珠を取って来ることから、はるばるお城までぴょんぴょん旅してくることまで成し遂げたのは、ひとえにこの頑固さのせいである。もちろん、取引条件をしっかり主張することも・・・。
他方、お姫様も、カエルが王子様である点について、一歩も譲らない頑固者である。
ここにきて、二人(正確には1人と一匹)の信念が激突、というか平行線をたどり、両方ともみじめになっているわけである。
「でもどうやって?自分が王子だといわれても、あなたのいっていることがまったくわからないんです。」
お姫様はなんとかして、自分がカエルのなかに見ているものを、彼に示したかった。
「私の目をじっと見て。」
二人(正確に言えば・・・まいっか)は見つめあった。かなり長いあいだ。
何かがおきた。
カエルは、お姫様のいう、自分が王子様だということが、おぼろげながらわかるような気がしてきた。
お姫様はもう一度、カエルのひんやりした唇にキスをしてみた〔キス(二)〕。
しばらく待ってみた。
「だめだわ。」とお姫様は言った。
「申し訳ありません。さぞ不愉快だったでしょう。」
「それほど不愉快でもなかったわ。」
「それは感激です」
姫君はうなずいた。
「つぎはなんでしょう。」
「さあねぇ。どうしたものやら。」
◇ ◇ ◇
いよいよ、追い詰められた感じがしてきた。二人とも重苦しい雰囲気につつまれた。
姫君は、ベッドのへりに座っていた。
何か、思い切ったことをしなければならないことはわかっていた。
変身である。変身させなければならない。
でもどうやって?
あらゆる型を破り、世界を丸ごと投げ捨て、現状の反対側にたどり着かなければならない・・・。
重苦しい雰囲気のなか、恐縮であるが、次回へ続く。