イギリス人銀行員の父が息子に伝えたかったこと・・・「たのしい川辺」を読みました。

   ケネス・グレーアム 作  石井桃子 訳   岩波少年文庫

 子供向の本である。

 小さいころから本の虫であったので、絵本を卒業してから、子供向けの本も読みまくった。この岩波少年文庫は、昔はハードカバーしかなかったのを、読みやすい新書版にしていただき、今でも好きな、子供向けの本がたくさん読めて、嬉しいかぎりである。全巻読んだ、大好きな(最近映画化された)ナルニア国シリーズとか、ケストナーも入っている。

 あとがきを見ると、ケネス・グレーアムという人は、銀行員だったらしい(イギリス人と書いたが、アイルランド系である。時々あらわれる幻想的なタッチがケルトらしい)。息子、アラステアが寝付かないので、お話を読んでやったのがこの話をかくきっかけとなった。

 モグラ、ネズミ、アナグマヒキガエルなどが出てくるが、外見以外は人間と変わらない。クマのプーさんや、ピーター・ラビットなどの系譜に連なる、服を着て、社会生活を送る動物達の話である。

 コンラート・ローレンツ博士なら怒りそうであるが、動物達は、単に小さい子供達に好かれているからにすぎず、描かれているのは、100%人間自身の話であることに気づけば、怒りをおさめていただけるにちがいない。

 特に、クマのプーさんとは、登場「人物」が、内心を歌にすることを好むなど、いろんな点で似ている。A・A・ミルン(クマのプーさんの作者)は、この本が大好きだったらしい。

 一生涯、銀行員として働き、総務部長相当ぐらいに出世した、ケネス・グレーアムは、この本を通して、楽しく、しかし、世間を渡る上で是非とも教えておきたいことを息子に伝えたかったに違いないと虫には思えてならない。

  • 家庭を大切にしよう。

 There’s no place like home.というHome Sweet Home(埴生の宿)の歌詞にもあるように、Homeはイギリス人の城である。

 モグラ君もネズミ君も、実に、家の事をしっかりやっている。モグラ君はだけは、最初にお掃除を放棄してしまうが・・・(しかしそんなことは誰だってしますよね)

 まえの日に、あまり戸外を歩きまわり、うちょうてんになりすぎたせいで、ヒキガエルはぐっすり寝こんで、あくる朝は、いくらゆり動かしても、起きませんでした。そこで、モグラとネズミは、しずかに、また男らしく しごとにとりかかって、ネズミが馬のめんどうをみ、火をおこし、ゆうべのお茶わんやおさらをかたづけたり、朝ごはんのしたくをしたりするあいだ、モグラは、かなり遠いところにある、いちばん近い村へ、ミルクやたまごやそのほかの必要品ーーーもちろんヒキガエルはいろいろなものを忘れてきていましたからーーーを買いにでかけました。

 こういった家の仕事にまじめに取り組む形容として、「男らしい」という言葉が使われるのは、喜ばしいかぎりだ。最近は、このような場面で「男らしい」という形容詞を使わない。しかし、単にマッチョであることや、ヒーローの真似なんかするより、ずっと好ましい使い方である。

 料理やら洗濯やら掃除やら、家に関する仕事に真面目に、地味に取り組む男は(女も)、男らしい。

 虫も最近個人的に、地味にカレーをつくる姿に男らしさを感じたことがあった。

 また、『5 なつかしのわが家』で、モグラが、ネズミのところにとまりこむため、ほったらかしにしてた我が家に戻り、ネズミと二人で、また、家を掃除したり、ありあわせなどでご飯をつくり、居心地よくするところはなかなかである。ちなみに、この章で、ビールを温めて飲むところがある。

  • 新奇を追うな。

 新しもの好きのヒキガエルは、実は、息子、アラステアだったそうである。ヒキガエルは新しいものが大好き。おまけに見栄っ張りである。

 最初は箱馬車(中で生活ができる)、次は自動車。

 おまけに運転がヘタクソなので、もんのすごいハタ迷惑である。自動車を合計7台も壊している。

 そのために、刑務所送りにされ、洗濯ばあさんの格好で脱出するなど、苦労して、やっと教訓を得ていくのである。

  • 自分のことばかり話さないで、他人に思いやりを持ちなさい。

 ヒキガエルは屋敷を持っていたが、刑務所から脱出して帰ってくると、ならずもののイタチなどに占拠されていた。
 そこで、アナグマ、ネズミ、モグラなどの協力で、屋敷を奪還する。アナグマが屋敷の秘密の通路を知っていたので、奇襲作戦が成功したのである。

 そこで、ヒキガエルは、「帰宅」パーティを行うが、そのプログラムはすべて、偉大な英雄、ヒキガエルの歌、詩の朗読(もちろんヒキガエルによる)等である。

 これを知ったアナグマ達が、道理を言い聞かせ、今度こそ、ヒキガエルは生まれ変わる。

 「では、英雄、ヒキガエルに一曲」と言われても、固く固辞し、話すときは相手の話をする。

 この謙遜!誉められても、「いえいえとんでもない」といいはるあたり、イギリス人紳士とはこういうもの、である。(日本人のいい点でもある)