「<動物行動学入門>ソロモンの指輪」を再読しました。

コンラート・ローレンツ日高敏隆=訳 早川書房

忘れもしない、中学時代のある日暮れである。
大きな木にカラスがたくさん集まって、カァカァ鳴いていた。
それを見た虫の友人が、カラスに向かい、「カァカァ」言い出したのである。
何をしているのか、虫が尋ねたところ、カラスと話してると言う。
(変わった子だとは、思ってたけど、とうとうイカれたか…)と思っていたところ、ひとしきり、カラスと「話し」て気がすんだ、その友人がすすめてくれたのが、この本である。

これを読んで、カラスと話そうとした理由はわかった。(ま、虫は「話」はしようと思わないが)
あまりにいい本なので、以来、年に1度ぐらいは読んでいる。

ところで、卵からかえったヒナが、最初に見た動く生き物をお母さんと思う現象をご存じか。刷り込みと言う。
コンラート・ローレンツはこれを発見して、ノーベル賞を受賞した。
その経緯は、この本の、ハイイロガンの子、マルティナのお母さんになった部分に詳しく書いてある。
マルティナが、ローレンツ博士をお母さんと思いこみ、必死にかけてくる姿は、想像するだに可愛い!
それも、生まれてすぐに片目で、ジーっと見られたためである。
しかしもちろん、お母さん業は大変である。
マルティナはローレンツ博士と片時も離れる事ができない。もし、野外で親とはぐれたら死活問題だからである。
離れると、「ピープ、ピープ、ピープ!」(お母さんどこ?)と泣きわめくのである。
ローレンツ博士は、小さなカゴを用意してマルティナを持ち歩く事にした。
ローレンツ博士が自由なのは、マルティナが寝ている間だけだったが、マルティナは、決して長い間寝る事はなかった。
温かいベッドを用意して寝かしつけても、1時間ごとに「ヴィ、ヴィ、ヴィ?」(私はここよ、あなたはどこ?)が始まる。
これに、「ガガガガ」とつぶやいて布団を軽くたたく等をしなくてはならない。
もししないと、「ピープ、ピープ、ピープ!」が始まり、ずっと泣きわめき続けるからである。
一人ぼっちのヒナは助けを求めてひたすら泣きわめく。
彼らは親が必要なことを本能的にわかっているのだ。
考えてみれば、赤ちゃんや小さい子が泣くのも同じ理由である。
そして、ローレンツ博士が側に来ると、喜んで「ヴィヴィヴィヴィ」とガンの挨拶を始めるのだ。
この「ヴィ、ヴィ、ヴィ?」は、昼間は2分ごと、夜は1時間ごとに始まる。
このようなガンの子の愛着に答えるのは、大変だが、なんとうらやましいことか!感動する。

このマルティナをはじめ、博士はカラスを一群れ(これも一匹のヒナを買ったのがきっかけだった。)犬、オウムといった様々な動物を飼う…ただし原則としてオリやカゴには入れない。自由を奪われてしょんぼりしている生き物を見ていたくないのだ。

 まえがきにもあるとおり、この本は動物たちに対する、愛から生まれた。生き物や動物たちの美しさ、愛らしさ、威厳や友情、社会、それらに魅せられたのが、コンラート・ローレンツ博士である。動物達を客観的にデフォルメしないで観察するからといって、愛がないわけではない。それどころか、大ありである!